秋立つ 夢野久作 / (同改稿) 秋立ちぬ 夢野久作 (詩篇)
[やぶちゃん注:以下の最初のものは西原和海編「夢野久作著作集 1」に載る「秋立つ」という詩である。これは西原氏の解題によれば、大正一四(一九二五)年九月十日発行の『福岡』第一巻第一号に「海若藍平」(「かいじゃくらんぺい」と読む)名義で発表されたものである。
本詩は四年後、「秋立ちぬ」と改題して若干の改稿が加えられて、昭和四(一九二九)年九月二十日発行の詩誌『加羅不禰(からふね)』第四号に再掲されており(恐らくは「夢野久作」名義か)、同じく西原氏の「夢野久作著作集 6」に所収する。それを「* * *」を挟んで、後に掲げておいた。]
秋立つ
ある町のある夜更け
ある鍛治の槌の音
ふと冴えて
秋立ちぬ
ある海のある魚のある一群のその一つ
ふと飛びて
秋立ちぬ
ある空のある星座
ある星のひそやかに飛びうせて
秋立ちぬ
ある夕べ
ある人のある思ひ
ふとせまり
涙落ち
秋立ちぬ
* * *
秋立ちぬ
ある町の ある夜ふけ
ある鍛治の 鎚の音 ふと冴えて
秋立ちぬ
ある海の ある魚の
ある群れの その一尾 ふと飛びて
秋立ちぬ
ある空の ある星座
ある星の ひそやかに 飛び失せて
秋立ちぬ
ある夕べ ある人の
ある思ひ フトせまり 涙落ち
秋立ちぬ