官能の正當なる動作 村山槐多
官能の正當なる動作
眼 淸く正しく外物を見る事
外に眼の動作あるべからず、眼を以て人の感情をあやつらんと考へるが如きは末なり、
耳、物の音を正確にききとる事
鼻、物のにほひを正しくかぎわける事
舌、物の味を正しく味う事
煙草、酒を斷つべし、是等は五感の一切を麻痺せしむる物なれど殊に舌を惡くす、
食ふ事、是最大の事なり
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あの女は多くの自らに觸れて來る物のすべてから自らをすくはうとして居る、
それはよくわかる、
自分はその中の一箇に過ぎぬかも知れない、が、自分にとつては、彼女は多き物のすべてだ、自分は彼女のおもしろいなぐさみ物の一つかもしれない、しかし、自分にとつては彼女は今の女王だ、彼女のすべての姿勢、すべての聲、すべての心の中に自分は自分の今を見出す、
瞬間の主義、運命の主義が自分を絶えずデカダンな思想に驅る、しかし、その他に何の自分の生き場所があらう、過去も現在も、つぶれて居る、こはされて居る、何の爲に未來に向つて用意する必要があらう、