晩(おそ)き日の夕べに 立原道造
晩(おそ)き日の夕べに
大きな大きなめぐりが用意されてゐるが
だれにもそれとは気づかれない
空にも 雲にも うつろふ花らにも
もう心はひかれ誘はれなくなつた
夕やみの淡い色に身を沈めても
それがこころよさとはもう言はない
啼いてすぎる小鳥の一日も
とほい物語と唄を教へるばかり
しるべもなくて來た道に
道のほとりに なにをならつて
私らは立ちつくすのであらう
私らの夢はどこにめぐるのであらう
ひそかに しかしいたいたしく
その日も あの日も賢いしづかさに?
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前刊行の楽譜様の処女詩集「萱草に寄す」の冒頭の「SONATINE No.1」群の三篇目に配された一篇。中公文庫「日本の詩歌」第二十四巻脚注によれば、本篇の初出は昭和一一(一九二六)年九月号の『新潮』である。]

