わかれる晝に 立原道造
わかれる晝に
ゆさぶれ 靑い梢を
もぎとれ 靑い木の實を
ひとよ 晝はとほく澄みわたるので
私のかへつて行く故里が どこかにとほくあるやうだ
何もみな うつとりと今は親切にしてくれる
追憶よりも淡く すこしもちがはない靜かさで
單調な 浮雲と風のもつれあひも
きのふの私のうたつてゐたままに
弱い心を 投げあげろ
嚙みすてた靑くさい核(たね)を放るやうに
ゆさぶれ ゆさぶれ
ひとよ
いろいろなものがやさしく見いるので
唇を嚙んで 私は憤ることが出來ないやうだ
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前刊行の楽譜様の処女詩集「萱草に寄す」の冒頭の「SONATINE No.1」群の四篇目に配された一篇。中公文庫「日本の詩歌」第二十四巻脚注によれば、本篇の初出は実は続く同パート五篇目の「のちのおもひに」とともに昭和一一(一九二六)年十一月号の『四季』であった。]