午後に 立原道造
Ⅷ 午後に
さびしい足拍子を踏んで
山羊は しづかに 草を食べてゐる
あの綠の食物は 私らのそれにまして
どんなにか 美しい食事だらう!
私の飢ゑは しかし あれに
たどりつくことは出來ない
私の心は もつとさびしく ふるへてゐる
私のをかした あやまちと いつはりのために
おだやかな獸の瞳に うつつた
空の色を 見るがいい!
《私には 何が ある?
《私には 何が ある?
ああ さびしい足拍子を踏んで
山羊は しづかに 草を 食べてゐる
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前の道造が最後に構想していた幻の詩集「優しき歌」の原稿(当時、中村真一郎が所蔵)をもとに推定された詩集「優しき歌」(「序」及び「Ⅰ」から「Ⅹ」のナンバーを持つ詩篇群)の第八曲。
なお、ここまで述べて来ていないが、気がついておられない方のために申し添えておくと、この底本では、非常によく似た尖った二重括弧(《 》)と丸い二十括弧(⦅ ⦆)が併用されて散在している。一応、それも私は再現している。]