私の貧しさは‥‥ 立原道造 【★引用元が正規表現ではないことが発覚した】
私の貧しさは‥‥
私の 貧しさは 暗い淚をたれ
ひつそりと 建物の壁に沿つて 步く
風が 私の髮を かきみだしてゐる
怒つたやうに‥‥
不意に 明るい場所へ 出るので
影は 濃く 風が にほひはじめる
日向の色に 私の心は耐へかねない
しづかに 聲を立て むせび泣く
そして どこからか 老いた
母の うたふ聲が 私を立ちどまらせる
眠らせようとでも するやうに
明るい晝なのに 何かしら眠りが
私のうちを ゆきすぎる‥‥ああ
この疲れに 私の步みは すでに馴れはじめた
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。第三部に配された未発表の未定稿詩篇五篇の最初の一篇である。私には第三連が格別に響く。
【二〇二六年追記】題名に追加を附した通り、以上の底本は本文正規表現が不全であることが判明した。これは旧角川書店版全集の、ここに基づいたものである。ただ、そういう書誌学的な不全が、長く後の詩集・選集に影響を及ぼしている例として、敢えて、残すこととした。★正規表現の決定版は、先程、「立原道造草稿詩篇 (私の 貧しさは……)」として挙げてあるので、必ず、そちらを見られたい。★]

