逝く晝の歌 立原道造
逝く晝の歌
私はあの日に信じてゐた――粗い草の上に
身を投げすてて あてなく眼をそそぎながら
秋を空にしづかに迎へるのだと
秋はすすきの風に白く光つてと
さうならうとは 夢にも思はなかつた
私は今ここにかうして立つてゐるのだ
岬のはづれの岩の上に あらぶ海の歌に耳をひらいて
海は 波は 單調などぎつい光のくりかへしだ
どうして生きながらへてゐられるのだらうか
死ぬのがただ私にはやさしくおそろしいからにすぎない
美しい空 うつくしい海 だれがそれを見てゐたいものか!
捨てて來たあの日々と 愛してゐたものたちを
私は憎むことを學ばねばならぬ さうして
私は今こそ激しく生きねばならぬ
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。底本の第二部、堀辰雄らが抄出した初期詩篇二十七篇の中の一篇。中公文庫「日本の詩歌」第二十四巻脚注によれば、『四季』昭和一一(一九三六)年十月号に前に示した「甘たるく感傷的な歌」とともに発表されたものである。]