夕映の中に 立原道造
夕映の中に
私はいまは夕映の中に立つて
あたらしい希望だけを持つて
おまへのまはりをめぐつてゐる
不思議な とほい人生よ おまへの‥‥
だがしかしそれはやがて近く
私らのうへに花咲くだらう と
私はいまは身をふるはせて
あちらの あちらの方を見てゐる
しづかだつた それゆゑ力なかつた
昨日の そして今日の 私の一日よ
心にもなく化粧する夕映に飾られて
夜が火花を身のまはりに散らすとき
私は夢をわすれるだらう しかし
夢は私を抱くだらう
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。第三部に配された未発表の未定稿詩篇五篇の第三篇目。――私たちは容易に夢を忘れる……しかし……真実(まこと)は……《私たちが夢を抱く》のではない……《夢が私たちを抱く》のである――と、道造は私たちに教えて呉れる。……]