甘たるく感傷的な歌 立原道造
甘たるく感傷的な歌
その日は 明るい野の花であつた
まつむし草 桔梗 ぎぼうしゆ をみなへしと
名を呼びながら摘んでゐた
私たちの大きな腕の輪に
また或るときは名を知らない花ばかりの
花束を私はおまへにつくつてあげた
それが何かのしるしのやうに
おまへはそれを胸に抱いた
その日はすぎた あの道はこの道と
この道はあの道と 告げる人も もう
おまへではなくなつた!
私の今の悲しみのやうに 叢には
一むらの花もつけない草の葉が
さびしく 曇つて そよいでゐる
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。底本の第二部、堀辰雄らが抄出した初期詩篇二十七篇の中の一篇。中公文庫「日本の詩歌」第二十四巻脚注によれば、『四季』昭和一一(一九三六)年十月号に次に示す「逝く晝の歌」とともに発表されたものである。【二〇二六年五月六日修正】正字不全を修正した。]

