橋本多佳子句集「命終」 昭和三十六年(4) 長良川/他
長良川
山下鵜匠邸庭にわが句碑立つ、誓子先生の
句碑とともに。東京より三人の娘、三野明
彦・武彦来。美代子・稔、奈良より加はる。
姉妹同じ声音蟬鳴く中に会ひ
[やぶちゃん注:前書の「美代子・稔、奈良より加はる」の中間の読点は恣意的に挿入した。「蟬」は底本の用字。以下同じ。底本年譜の昭和三六(一九六一)年の七月の条に、『岐阜長良川河畔の鵜匠山下幹司邸の前庭に、誓子との師弟句碑立つ。両句共に、三十一年七月、鵜舟に乗った時の句。
鵜篝の早瀬を過ぐる大炎上 誓子
早瀬過ぐ鵜飼のもつれもつれるまま 多佳子
除幕式に、誓子、波津子、多佳子、かけい、双々子、薫ら出席。また、東京より三人の娘と三野明彦、武彦。奈良より美代子、稔』とある。誓子満五十九、多佳子満六十二であった。]
籐椅子が四つ四人姉妹会ふ
蟬声に高音加はる死は遠し
*
女やすむとき干梅の香が通る
紅き梅コロナの炎ゆる直下に干す
甲虫飛んで弱尻見せにけり
西日浄土干梅に塩結晶す
*
をどり太鼓すりばち沼に打ちこんで
をどり衆地上をよしと足擦つて
をどりの輪つよし男ゐて女ゐて
かの老婆まためぐりくるをどりくる
夜の土に腰唄はずにをどらずに
尽きぬをどりおきて帰るや来た道を
をどり太鼓びんびん沼がはね反す
子が持つて赤蠟赤光地蔵盆
わが燭の遅れ加はる地蔵盆
*
曼陀羅の虫の音崖の下に寝て
[やぶちゃん注:「曼陀羅」の用字はママ。]
甲虫紅き縫絲がんじがらめ
郭公に刻をゆづるよ暁ひぐらし
吾去れば夏草の領白毫寺
試歩を寄す秋天ふかき水たまり
翅立てて蝶秋風をやり過す
蜂さされ子に稲を刈る母の濃つば
プールサイドの椅子身をぬらさざる孤り
月遅し木星が出て海照らす
流れ急どかつと曼珠沙華捨つる
[やぶちゃん注:底本年譜の昭和三六(一九六一)年には先の七月の条に続いて、ただ一行、『九月、身体の調子悪くなる』とあって、この年の叙述そこで終っている。]
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