小泉八雲 落合貞三郎訳 「知られぬ日本の面影」 第七章 神國の首都――松江 (一七)
一七
この陰氣な城には、因緣話がある。
丁度『スカドラの礎』と稱する塞比亞の哀れな俗謠に、怖ろしい形見を留めてゐると同樣な、一種の原始的蠻習のために、築城の際、何とかいふ神に犧牲として、ある松江の少女が城壁の下ヘ生埋にされたといふことだ。少女の名は傳はらなかつた。美しくて、踊りが好きでつたことの外は、何も記憶されてゐない。
さて、城が出來上つてから、松江の娘は城の附近の街頭では盆踊をすること、一切相成らぬといふ法度が出ねばならなかつた。それは、いつも娘の踊るものがあると、御城山が動いて、大きな城が礎から頂まで搖れるからであつた。
[やぶちゃん注:「『スカドラの礎』と稱する塞比亞の哀れな俗謠」「塞比亞」は原文の綴りから「セルビア」のことで、“The Foundation of Skadra”は“The Building of Skadar”というセルビアの叙事詩を指し(平井呈一氏は『シベリアの民謡』と訳されているが、これは何かの勘違いであろう)、そこに語られた、城塞を築くために若い女性が人柱に捧げられるという内容との酷似性をハーンは述べているらしい。英文ウィキでやっと見つけた“The Building of Skadar”からの半可通の分かったような分からぬような注で失礼する。詳細な情報を御存じの方は是非、御教授あれかし。
「築城の際……ある松江の少女が城壁の下ヘ生埋にされた」ウィキの「松江城」の「人柱伝説」には、『天守台の石垣を築くことができず、何度も崩れ落ちた。人柱がなければ工事は完成しないと、工夫らの間から出た。そこで、盆踊りを開催し、その中で最も美しく、もっとも踊りの上手な少女が生け贄にされた。娘は踊りの最中にさらわれ、事情もわからず埋め殺されたという。石垣は見事にでき上がり城も無事落成したが、城主の父子が急死し改易となった。人々は娘の無念のたたりであると恐れたため、天守は荒れて放置された。その後、松平氏の入城まで天守からはすすり泣きが聞こえたという城の伝説が残る。また、城が揺れるとの言い伝えで城下では盆踊りをしなかった。(「小泉八雲/人柱にされた娘」など)』とある。但し、人柱伝承には別話もあり、『天守台下の北東部石垣が何度も崩落するため困っていたところ、堀尾吉晴の旧友という虚無僧が現れて、崩落部分を掘らせたところ槍の刺さった髑髏が出てきたので虚無僧が祈祷したが、まだ危ういところがあるというと虚無僧は「祈祷では無理だ。」というのである。どうすればいいのかたずねると、「私の息子を仕官させてくるのであれば、私が人柱になろう。」というので、虚無僧に人柱になってもらい工事を再開させることができたが、堀尾家は普請の途中に』第二代『忠晴で絶え改易となった、という』とし、更に『これには別に、虚無僧の尺八が聞こえてきたので捕まえて人柱にしたところ、尺八の音が聞こえるようになった、というものもある』とする。別な記述では、築城期間の毎年の盆踊りの際に娘を攫っては三年で都合、三人も人柱にし、だから三代目で滅んだという説もあり、それが天守閣に出現する女の妖怪談にまで大発展しているものもあるのだが、ここはハーンの少女への憐みを大切にするため、ここまでとしておく。]
Sec. 17
The grim castle has its legend.
It is related that, in accordance with some primitive and barbarous custom, precisely like that of which so terrible a souvenir has been preserved for us in the most pathetic of Servian ballads, 'The Foundation of Skadra,' a maiden of Matsue was interred alive under the walls of the castle at the time of its erection, as a sacrifice to some forgotten gods. Her name has never been recorded; nothing concerning her is remembered except that she was beautiful and very fond of dancing.
Now after the castle had been built, it is said that a law had to be passed forbidding that any girl should dance in the streets of Matsue. For whenever any maiden danced the hill Oshiroyama would shudder, and the great castle quiver from basement to summit.
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