また落葉林で 立原道造
Ⅴ また落葉林で
いつの間に もう秋! 昨日は
夏だつた‥‥おだやかな陽氣な
陽ざしが 林のなかに ざはめいてゐる
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに
おまへが私のところからかへつて行つたときに
あのあたりには うすい紫の花が咲いてゐた
そしていま おまへは 告げてよこす
私らは別離に耐へることが出來る と
澄んだ空に 大きなひびきが
鳴りわたる 出發のやうに
私は雲を見る 私はとほい山脈を見る
おまへは雲を見る おまへはとほい山脈を見る
しかしすでに 離れはじめた ふたつの眼ざし‥‥
かへつて來て みたす日は いつかへり來る?
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前の道造が最後に構想していた幻の詩集「優しき歌」の原稿(当時、中村真一郎が所蔵)をもとに推定された詩集「優しき歌」(「序」及び「Ⅰ」から「Ⅹ」のナンバーを持つ詩篇群)の第五曲で、表題は既に掲げた同じ「優しき歌」の「Ⅱ 落葉林で」(「黃昏に」の注に引いた)を受ける。なお、「ざはめいてゐる」はママ(「朝に」の私の注を参照されたい)。]