樹木の影に 立原道造
Ⅸ 樹木の影に
日々のなかでは
あはれに 目立たなかつた
あの言葉 いま それは
大きくなつた!
おまへの裡に
僕のなかに 育つたのだ
‥‥外に光が充ち溢れてゐるが
それにもまして かがやいてゐる
いま 僕たちは憩ふ
ふたりして持つ この深い耳に
意味ふかく 風はささやいて過ぎる
泉の上に ちひさい波らは
ふるへてやまない‥‥僕たちの
手にとらへられた 光のために
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前の道造が最後に構想していた幻の詩集「優しき歌」の原稿(当時、中村真一郎が所蔵)をもとに推定された詩集「優しき歌」(「序」及び「Ⅰ」から「Ⅹ」のナンバーを持つ詩篇群)の第九曲。]