夢のあと 立原道造
IIII 夢のあと
《おまへの 心は
わからなくなつた
《私の こころは
わからなくなつた
かけた月が 空のなかばに
かかつてゐる 梢のあひだに――
いつか 風が やんでゐる
蚊の鳴く聲が かすかにきこえる
それは そのまま 過ぎるだらう!
私らのまはりの この しづかな夜
きつといつかは (あれはむかしのことだつた)と
私らの こころが おもへかえすだけならば!‥‥
《おまへの心は わからなくなつた
《私のこころは わからなくなつた
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前の道造が最後に構想していた幻の詩集「優しき歌」の原稿(当時、中村真一郎が所蔵)をもとに推定された詩集「優しき歌」(「序」及び「Ⅰ」から「Ⅹ」のナンバーを持つ詩篇群)の第四曲。ローマ数字は底本では「Ⅳ」ではなく、表記の通り、「IIII」を用いている(後者はローマ数字の古い表記法であり、現在でもタロット・カードなどで見かけることがある)。]