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2015/10/19

物語 Ⅱ つめたい雨の晝のわかれ   立原道造

       Ⅱ つめたい雨の晝のわかれ

 

 なにがそこでは悔いだつたのだらう? 何ももうのこらないとくりかへしておもつたとき、私らがめぐりあつたのは、そして語りあつたのは昔がたりのうつつにすぎなかつたとき、すべてを夢よりほかの場所においてはならない日に住んだとき。別れと、これを名づけることが私らに出來ようか?――いいえ、それは出來ない。――私らは何をかんがへてゐるのだらうか?――言つてはいけない、言葉はゆるされない。そして別れではない、私らは逢はなかつた、それゆゑ私らは別れることも出來ない。――しかし私は見た、おまへの合圖を、私を呼ぶほほゑみを。――あなたは見た、私を。私は見た、あなたを。そして私らの言葉は互に呼びかへした。また絡みあつた。だけれどもそれよりほかになにがあつたらう?――とほい昔、私の昔でもない、おまへの昔でもない、そのやうな日の、私らのはかないめぐりあひをしか言ふことが出來ない。それは音のやうなものだ。消えてゐる、しかし私らは知つてゐる、そしてたしかめられない。私らのふたつの心には傷もしるしものこらない。――私らは愛しあつてはゐなかつたから。私はあなたを愛してゐたのに、あなたは私を愛してゐたのに、夢はいつもひとりぼつちでゆたかにみたされてゐた。私のひとつの心に。――かへらない繰り言だ、なにも悔いでない、別れではない、しかしいつかまた私らはめぐりあふであらう、星のめぐりのやうに。そして、私はおもふ、おまへなしに私はおまへを持つてゐたと、私の外に、そして外と分けられない私の内に。私はけふもおまへをそこにおく。おまへはとほくにゐる、ちやうどこの眼にはつきりと映るほどに。私の内にかなふ外にゐるとき、おまへはかたくつめたい輪廓を持つてゐる。そして私を見てゐる、私のここにゐることを、私がここを立ち去ることを、疑ひもせずに。――だがまた私らはめぐりあふであらう。あなたが私を忘れつくすとき、あなたは私にめぐりあふであらう。そのときあなたはなにをおもふであらう? いいえ、それは私はなにをおもふかといふことだ、そのやうなおもひは、ためらひのうちにけふのやうに消えるであらう。けふのやうに? それはなにであらう? はかなく、かなしみでもなく。いたみでもなく。……――雨は降る、かうばしい雫が、やさしい木の實を慰さめるしらべをうたふ、私らは聞かう、この歌の意味を。――それは私の心を慰さめないさびしい歌だ、あなたは聞いてゐる、あなたの心はそれに慰さめられる。しかし私の哀しみはつめたくいたむきりだ。――これが在るといふことなのだらうか? 私らは何かしてゐるのだらうか?……私にはわからない。私は聞いてゐる、かすかな歌の意味を、そしておまへを超えておまへのまはりをみたす雨に濡らされてゐる景色を。――時が私らを裂く。思ひ出はかへつて來る。しかし私らはかへられない。何をあなたは別れと名づけようとするのだらうか? しかし私らは別れねばならない。うつつにめぐりあつたときにすら、私らのめぐりあひは別れであつた。このおもひはやさしい。それは教へる、私らの語りあつたすべてを夢にせよ、と。あなたの慰さめにみちた歌も、私には夢となれ!……胸よ、いたむな、たはむれよ、人工よ、かき消すやうに、のこつてあれ!

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