橋本多佳子句集「命終」 昭和三十七年(3) 三鬼氏を悼む
三鬼氏を悼む
桜の下喪の髪にビンいくつも插し
花万朶しづもるや喪の重き如
桜寒む生死の境くつきりと
桜見てひとり酌む酒手向け酒
げんげ畑そこにも三鬼呼べば来る
花万朶皮膚のごとくに喪服着て
[やぶちゃん注:この句、私は強く惹かれる。]
眼にあまる万朶の桜生き残る
喪服着て花の間いそぐ生き残り
桜寒む熱き白湯飲み生一途
日をつつむ西方桜死は遠し
[やぶちゃん注:「三鬼」多佳子が終生兄事し続けた西東三鬼(彼女より一つ年下)は昭和三七(一九六二)年四月一日、胃癌のため満六十二で永眠した。この追悼句群はその死への苛立つような同調性の「黒」と、それに応ずる眼前の桜花の生々しい「生」の色彩が恐ろしいまでにエッジを鋭くしており、映像化してみたい欲求に駆られる優れた句ばかりである。私の偏愛する西東三鬼の私のオリジナル句集はこちらにある。未見の方は、是非、どうぞ。]
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