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2015/10/17

生物學講話 丘淺次郎 第十六章 長幼の別(6) 四 幼時生殖(3) クシクラゲの例 / 四 幼時生殖~了

 
 
Kusikurage

    [「くらげ」

左の上に示したるはその幼兒]

 

 なほ一つ幼時生殖の例を擧げて見るに、海の表面に浮んで居る透明な「くらげ」の中に「櫛くらげ」と名づけるものがある。普通の「くらげ」が椀や傘の如き形をして居るのと違ひ、この類は多くは茄子の如き形でその柄に當る處に口があり、體の表面には多數の小さな櫛狀の板が子午線に相當する方向に八本の縱列をなして竝んで居る。そしてこの櫛狀の板が絶えず揃うて動き水を漕ぐので、こゝかしこへと目的もなく轉がつて行く。「櫛くらげ」類のなかには「帶くらげ」というて、長さ五〇糎にも達する幅の廣い帶狀のものがあるが、これは茄子狀の體を左右に引き延したやうなもので、外形は大に違ふが、内部の構造は全く同一である。一體「櫛くらげ」は皆硝子のやうに無色透明である上に、櫛の列の處は虹の如きさまざまの色を反射して頗る美しいものであるが、特に「帶くらげ」が長い體を徐々と蜿らせながら、海面に浮かび赤、青、綠、紫などの薄い光を放つ如く見える有樣は、實に何ともいはれぬ程美麗である。西洋でこの「くらげ」を「愛の女神ヴィーナスの帶」と名づけるのも決して讃め過ぎではない。殘念なことには、標本として保存することが殆ど不可能であるから、自身で海へ出掛けなければその美しい姿を見ることが出來ぬ。さてこの「帶くらげ」でもこれに類する他の「櫛くらげ」でも卵から孵つたばかりの極めて小さいときに、一度成熟した卵細胞と精蟲とを生じて生殖作用を行ひ、後直に生殖力を失うてただ大きくなり、生長が終わると再び生殖を始める。人間に譬へていへば、生まれたばかりの赤子が直に結婚して子を産み、それより普通の子供に返つて生長し、成年に達して更に改めて結婚し子を産むことに當る。かやうなことのない人間から見ると、如何にも不思議な何となく不條理なことの如くに考へられるが、「櫛くらげ」に取つては、これがやはり種族維持のために必ず有利なことであらう。生殖の目的は種族を繼續させるにあるから、如何なる形の生殖法でもこの目的に適ひさへすれば宜しいわけで、實際自然界には、さまざまな生殖法の行はれて居ることは、この一例によつても確に知れる。

[やぶちゃん注:「櫛くらげ」見た目はクラゲに非常に酷似した生物であるが、その動物群だけでクシクラゲ類とも呼称する(クシクラゲを和名とする種は現在はいない模様である)、独立した有櫛動物門 Ctenophora を構成する(ギリシャ語の“ktenos”(櫛)+“phoros”(持っている))、一部の定在固着性及び匍匐性の種を除いて、概ね自由遊泳性のプランクトン生活をする海産生物である。嘗てはクラゲ類と同様に見做されて腔腸動物門として分類されていたが、見た目は似ていても刺胞動物門 Cnidaria のような刺胞(Nematocyst)を原則として持たず(盲体腔綱フウセンクラゲ目フウセンクラゲモドキ科フウセンクラゲモドキ Haeckelia rubra は膠胞(こうほう:後述)の代わりに刺胞を持つが、最新の研究では、これは同種がヒドロクラゲ類を摂餌する際にその刺胞を消化せずに体内にまるごと吸収して自らの防禦器官として利用している「盜刺胞」であることが判ったようである)、その代わりに捕食及び攻撃防禦器官として膠胞(colloblast:「粘着細胞」とも呼ぶ)を持つ。これは刺細胞の一種とされるものの、通常は毒液を注入するような性質の器官ではなく、外端に強い粘着力を物質を分泌する部分を有し、内部には螺旋状を呈する一本の弾力性のある繊維を保持する。他にも、胃管系には口と別に排出孔が開口していること、体の口の位置の反対側に平衡胞と呼ぶ細胞を主体とした特殊な感覚器を有すること、丘先生が述べるように体表面に極めて特殊にして独特の構造を持った櫛板(くしいた)を八縦列に配置している点でも刺胞動物門とは大きく異なり、刺胞動物に有意に見られる世代交代も見られない(ここまでは自身の知見を「原色検索日本海岸動物図鑑[]」(保育社平成四(一九九二)年刊)の「有櫛動物門」の記載で確認しながら記したものである。なお、同書は文字通り、沿岸域「に限定した現行最大の海岸動物図鑑であるが、それでも有櫛動物として十五種を掲げている)。以下、ウィキの「有櫛動物」によりつつ、一部を補足して概説すると、『熱帯から極地地方まで、また沿岸から深海まで様々な環境に生息しており、世界で』百から百五十種ほどの現生種が知られている(向後も深海性の未発見種を中心に現生種は増加するものと私には思われる)。現在の新分類では盲体腔綱 Typhlocoela フウセンクラゲ目 Cydippida の仲間や、環体腔綱 Cyclocoela のオビクラゲ目 Cestida・カブトクラゲ目 Lobata・ウリクラゲ目 Beroida などの仲間の総称和名を一般には目にすることが多い。『多くのものは体に色素がなくほぼ無色透明。組織のほとんどが水分からできている点はクラゲ類と同様である』。『いわゆるクラゲのような傘状ではなく、球形や楕円形に近い形のものが多い。下端に口が開く。カブトクラゲ類では口の周りの部分は袖状に広がり(袖状突起)、口はその内側に位置する。クラゲムシなどではこの部分を広げて平らになり、基盤上に吸着してはい回る。ウリクラゲ類やヘンゲクラゲなどでは体の下端に大きな口が位置する』。『体の表面の周囲を放射状に取り巻いている光るスジ「櫛板列」が』八列あるのを特徴とする。『その点ではクラゲ類やイソギンチャクなどの刺胞動物、ウニ、ヒトデ類(棘皮動物)と同様に、放射相称の体を持つといえる。櫛板列には微細な繊毛が融合してできた「櫛の歯」に相当する櫛板が配列している。クシクラゲ類は、この櫛板の繊毛を波打つように順々に動かすことで、活発に移動することができる。撮影された画像では櫛板列がネオンサインのように虹色に光って見えることがあるが、これは生物発光ではなく光の反射によるもので、色は構造色である』。『体は一見放射相称だが、ウリクラゲ類以外では』二本の『触手を持っており、触手面と咽頭面について相称であるので二放射相称とされてきた。しかし、反口極に開く排泄口はこれらの面について相称でなく、厳密には口-反口の体軸を通る任意の面に対して』、百八十度『回転相称となる』。『触手に多数の分枝があるものと、分枝が無いものがあ』るが、既に述べた通り、これらにあるのは刺胞ではなく、膠胞である。浮遊性の種群と比して全く異なった姿をしているのが盲体腔綱目クシヒラムシ目Platyctenida のクシヒラムシ科Ctenoplanidae のクシヒラムシ類や、同目クラゲムシ科 Coeloplanidae クラゲムシ属 Coeloplana のクラゲムシ類で、『いずれも口の面を基質上にくっつけて平らになった姿をしており、背面からは』一対の『触手を伸ばしながら、はい回って生活する』。同クシヒラムシ目コトクラゲ科 Lyroctenidae のコトクラゲ類は『海底の岩などに固着性の生活をしており、上の面から触手を伸ばす。これらでは櫛板が退化する傾向があり、クラゲムシでは完全に失われている』。既に述べたように、『大部分のものはプランクトンであり、海中を漂って生活している。触手を長く伸ばし、それに触れた微小な生物を餌にしている。しかしウリクラゲ類は、他のクシクラゲ類を丸飲みにすることが知られている』。『クラゲムシは這い回る生活をするが、その移動速度はごく遅く、あまり動き回らずに触手を伸ばしている』。また、この有櫛動物類は『生物発光をするグループとして知られる。発光物質から出される光は、櫛板の反射による光よりもずっと暗いので暗黒下でないと見えない。水中に発光物質を分泌して、捕食者への目くらましに使うという。種類によっては体全体を動かして泳ぐものもいる』。丘先生の述べられるように、『この類は、その体が極めて軟弱で、網ですくっては壊れるため、ひしゃくのようなものを使わなければならない。また、』標本固定も難しく、『ひどい場合は薬品に触れると壊れてしまうので、生体のスケッチに頼らざるを得ないという』とある。クシクラゲ・オタクの私も無数の画像は見てきたものの、自然状態では津軽の仏ヶ浦の岩礁帯に於いて、淡紅色のしなやかな瓜の形をした美しいそれと思しいもの(私の同定が正しいとすれば環体腔綱ウリクラゲ目ウリクラゲ Beroe cucumis)を一度見たことがあるだけである(この時には同所で後に出る脊索動物門尾索動物亜門タリア綱サルパ目サルパ科 Salpidae のサルパの仲間も現認する幸運を得ている)。

「帶くらげ」中深層の遊泳性の有櫛動物の一種で、新分類では環体腔綱オビクラゲ目オビクラゲ科オビクラゲ Cestum amphitrites 。通常固体では全長一・五メートル、幅八センチメートルであるが、向後、驚くべき大型個体が発見される可能性は大きいと私は思う。]

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