或る晴れた日に 立原道造
或る晴れた日に
悲哀(ひあい)のなかに 私はたたずんで
眺めてゐる いくつもの風景が
しづかに みづからをほろぼすのを
すべてを蔽(おほ)ふ おおきな陽ざしのなかに
私は黑い旗のやうに
過ぎて行く古いおもひにふるへながら
風や 光や 水たちが 陽氣にきらめくのを
とほく眺めてゐる……別れに先立つて
私は すでに孤獨(こどく)だ――私の上に
はるかに靑い空があり 雲が流れる
しかし おそらく すべての生は死だ
眼のまへに 聲もない この風景らは!
そして 悲哀は ときどき大きくなり
嗄(しはが)れた鳥の聲に つきあたる
[やぶちゃん注:底本は昭和六一(一九八六)年改版三十版角川文庫刊中村真一郎編「立原道造詩集」を用いた。]