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2015/10/30

生物學講話 丘淺次郎 第十七章 親子(1) プロローグ/ 一 産み放し

     第十七章 親子

 

 種々の異なつた動物に就いて、親と子との關係を比べて見ると、これにも隨分著しい相違がある。しかもいづれの場合にも目的とする所は常に一つで、たゞそれを達するための手段が相異なるといふに過ぎぬ。一つの目的とはいふまでもなく種族の維持であつて、如何なる場合でもこの目的に撞著するやうなことはない。子を産み放すだけで更に構ひ附けぬものと。子を助けるためには自分の命をも捨てるものとを竝べて見ると、その行は互に相反する如くに思はれるが、よく調べて見ると結局同じことで、子を産み放して少しも世話をせぬ動物は、それでも種族の維侍が確に出來るだけの事情が必ず存する。また子のためには命を捨てる動物は、もし親にかゝる性質が具はつて居なかつたならば、必ず種族が斷絶すべき虞のあるものに限つてある。人間を標準として考へると子が敵に殺されるのを見ながら知らぬ顏をして居る親は如何にも無慈悲に見え、自ら進んで命を捨て子の危難を救ふものは如何にも熱情が溢れるやうに見えるが、自然を標準として考へると、いづれにもかくあるべき理由があつてかくするのであるから、一方を優れりとか一方を劣れりとかいふことは出來ぬ。これは習性の違うた動物をなるべく多く集めて、互に比較して見ると頗る明瞭に知れる。

 

     一 産み放し

 

 子を産み放したまゝで、少しも世話をせぬ動物の種類は極めて多い。所謂下等動物は大概子を産み放しにするものばかりで、幾分かでも子の世話をする種類はたゞ例外として、僅にその中に含まれて居るに過ぎぬ。しかし産んでから全く捨てて顧みぬものでも、産むときに適當な場處を選むといふことだけは必ずする。なぜといふに、もしも不適當な處に産んで卵が直に死んでしまへば、その種族の維侍繼續は無論出來ぬからである。

 

 「うに」・「なまこ」の類では、卵細胞と精蟲とが親の體を出てから勝手に出遇ふのであるから、子は生まれぬ前から親との緣が切れて、少しもその世話を受けぬ。體外受精をする「ごかい」の類や、「はまぐり」・「あさり」の如き二枚貝類も全くこれと同樣である。また魚類も大抵は卵を産み放しにする。魚の卵には水面に浮ぶものと、水底に附著するものとがあるが、若干の例外を除けば、いづれも獨力で小さな幼魚までに發育して、少しも親の世話になることはない。すべてこれらの動物は、極めて小さく弱いときから、獨力で生活を營まねばならず、隨つて餓ゑて死ぬことも、敵に食はれて死ぬことも頗る多かるべきは勿論でゐるから、これらの損失を最初から見越して、實に驚くべく多數の卵が常に生まれる。

 

 「海龜」は常に海中に住んで居るが、卵を産むときだけは陸へ上つて來る。東海道の砂濱では、幾らも龜の卵を雞卵の如くに賣り歩いて居るのを見掛けるが、龜が卵を産むのは必ず夜であつて、人の見ぬ靜なときを窺ひ、後足を以て砂の處に壺形の深い穴を掘り、その中へ澤山の卵を産み込み、丁寧に砂を被せて舊の如くにし、後足で自身の足跡を掃き消しながら海の方へ歸つて行く。それ故龜の卵のある場處を表面から知ることはなかなか出來ぬ。海龜は卵を産むときにはかくの如く實に用意周到であるが一旦産み終つた後は他へ去つて少しも構はず、卵はたゞ日光に温められて發育し、再び孵化する頃になると、幼兒は夜明け前に悉く揃うて殻を破り砂上に出で、一直線に海の方へ匍うて行くが、數百千の幼い龜が急いで砂の上を匍ふから、雨の降つて居るやうな音が聞える。南洋諸島に棲む「マッカンがに」は丁度これと反對で、親は常に陸上のみに棲み、椰子の樹に登り椰子の實を食ひなどして居るが、卵を産むときだけは海へ出掛ける。

[やぶちゃん注:「東海道の砂濱では、幾らも龜の卵を雞卵の如くに賣り歩いて居るのを見掛ける」爬虫綱カメ目潜頸亜目ウミガメ上科ウミガメ科 Cheloniidae に属するウミガメ類はアカウミガメ属 Caretta・アオウミガメ属 Chelonia・タイマイ属 Eretmochelys・ヒメウミガメ属 Lepidochelys・ヒラタウミガメ属 Natator に分かれるが、この内、日本沿岸で産卵が多く見られ、「東海道の砂濱」に産卵し、その卵が採取され、当時(本書の初版は大正五(一九一六)年発行)、普通にそれを「雞卵の如くに賣り歩いて居るのを見掛け」たというのは、アカウミガメ属アカウミガメ Caretta caretta と考えられる。日本では古から卵肉ともに食用にされてきたが、現在は往時の食用・剥製用採集に加え、砂浜海岸の開発による産卵地消失、漁業による混獲及びビニール等の海洋投棄物の誤飲などによって生息数が減少、さらに日本の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora CITES(サイテス))通称、ワシントン条約(Washington Convention)の締約(一九八〇年十一月四日)によって、同条約附属書附属書I(絶滅の虞のある種。商業目的の国際取引が制限されており、輸出入許可書の交付が必要な約千種)に含まれるため、実際に食すことは殆んど不可能になった。私はしかし、一九八〇年代後半にとある場所で食したことがある。鶏卵の一・五倍はあり、白身には有意な塩味があって黄身は非常に濃厚であった。

「マッカンがに」甲殻綱十脚(エビ)目エビ亜目ヤドカリ下目ヤドカリ上科オカヤドカリ科ヤシガニ属ヤシガニ Birgus latro の異名。陸上生活をする甲殻類の最大種。ウィキの「ヤシガニ」によれば、『ヤシガニは成長すると産卵時を除いて水に入る事はない。また、まったく泳ぐことができないため、波打ち際までしか入ることができず、水の中ではおぼれる』。繁殖はまず、五月から九月の間で『陸上で頻繁に交尾を繰り返』すが、特に七、八月に『繁殖はピークを迎える。雄と雌は交尾のためにもみ合い、雄は雌を仰向けにして交尾を行う。全ての行為は』十五分ほどで、『交尾後間もなく、雌は自分の腹部の裏側に卵を産み付ける。雌は数ヶ月間卵を抱えたまま生活し』、は十月か十一月の『満潮時、いっせいに孵化したゾエアと呼ばれる幼生を』海際に出て海中に放出する。幼生は二十八日間ほど『海中をただようが、その間に大部分は他の動物に捕食される。その後海底に降りてヤドカリのように貝殻を背負ってさらに』二十八日間ほど『成長を続けながら海岸を目指す。上陸後は水中で生活できる機能を失う。繁殖ができるようになるまでには』四年から八年『かかるとされ、甲殻類の中では例外的に長い期間である』とある(下線やぶちゃん)。丘先生は「椰子の樹に登り椰子の實を食ひなどして居る」と述べて、あたかもヤシ類(被子植物門単子葉植物綱ヤシ目ヤシ科 Arecaceae)の実が主食で、能動的にヤシの樹を登攀して実を切り落とすかのように述べておられ、私が小さな頃の魚介図鑑にもヤシの木を登るヤシガニの挿絵を普通に見かけたものだが、『実際には、ヤシガニの食性は口に入るものなら腐敗した死肉でも食べる雑食性で、必ずしもその主食にヤシの実があるわけではない。ヤシの実を食すことは確かだが、実を切り落とすために木に登る習性も確認されておらず、上記のイメージは口述伝承から生まれた誤解である』。但し、『ヤシガニは強力な鋏脚でヤシの実の硬い繊維も切り裂く事が出来る。また、銀食器や鍋などきらきらとした物を持ち去ることから、英語では Robber Crab (泥棒蟹)あるいは Palm Thief (椰子泥棒)などと呼ばれることもある。また、若いヤシガニは貝殻の中にその身を隠すこともある。生息域がインド洋の最西端からミクロネシアまで広がっているため、様々な名前で知られており、グアムではアユユと呼ばれ、その他の地域ではウンガ、カヴュ等と呼ばれることがある。また、生息する地域により様々な色をしており、明るい紫色から茶色まである』とある(下線やぶちゃん)。この「マッカンがに」という「マッカン」は八重山列島に於ける地方名で、「マッコン」「マックン」「マコガニ」などとも呼ぶ(絶滅が危惧されている沖縄本島では「アンマク」と呼ぶ)。が、「マッカン」は我々が小さな頃、アメリカザリガニの大型の赤色の個体(実際には蒼紫を帯びた個体が多いが、やはり昔の図鑑類では赤く塗ってあった)を「マッカチン」と呼んだのと同じく、赤色系のヤシガニ(或いはボイルした際の赤色発色)からの呼称か? よりも大きく、体長は四十センチメートルを超え、脚を広げると一メートル以上にもなり、四キログラム以上に成長する。タカアシガニに次ぐ大きさと言える。寿命は五十年程度と考えられている。『ヤシガニはヤドカリの仲間ではあるが、その大きさのため成体は体に見合う大きさの貝殻を見つけることは困難である。若いヤシガニは、カタツムリの殻などを用い、成長するにつれて、ヤシの実などを使うこともある。他のヤドカリとは違い、成体は腹部がキチン質や石灰質でおおわれ硬く、カニのように尾を体の下に隠すことで身を守る。腹部が硬い物質でおおわれていることで、地上でくらすことによる水分の蒸発を防ぐ。定期的に腹部を脱皮する必要があり、再び腹部が硬くなるまでは』三十日ほど『かかる。この間、ヤシガニは身を隠す』。以下、「食餌」の項を引く。『ヤシガニは主にヤシの実の胚乳であるコプラやイチジクなどの果物を食べるが、雑食性で、口に入れることができるものなら何でも食べる。沖縄の先島では、熟したアダンの実をばらばらにして食べる。葉や腐った果物、カメの卵、動物の死骸も食べる。オカヤドカリ同様、共食いもある。現在は行っていない養殖場での経験では、脱皮するヤシガニを他のヤシガニが攻撃するという。必要なカルシウムなどは他の動物の殻を食べることで補っていると推測される。また、生まれたばかりのウミガメの子供のように逃げ足が遅いものも食べてしまう。ヤシガニ同士で食べ物の取り合いをすることが知られており、手に入れた食べ物はその場で食べずに巣に持ち帰って食べる』。『沖縄の宮古島ではヤシガニを夏に捕えて茹でて食べる。ヤシガニは食物を得るため、または暑さや天敵を逃れるために木を登る。アダンの木に登っているのはよく目撃される。ヤシガニがヤシの実を食べているのを目撃した人の中には、木に登って実を切り落とし、地上に落ちたところを食べると考えた人もいる。しかしドイツ人の科学者ホルゲル・ランプフによると、ヤシガニは木の上でヤシの実を食べようとして偶然切り落としてしまうだけであり、そのような知性はないとする。ヤシガニは熟したヤシの実にハサミで穴を開け、中身を食べてしまう』とある(下線やぶちゃん)。]

Tanagosanran

[「たなご」の産卵]

[やぶちゃん注:これは国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像トリミングし、補正を加えた。]

 

 蛙の類は多くは水中へ卵を産んで、その後は少しも構はずに置くが、卵はそのまゝ水の中で「おたまじやくし」になるから何の差支もない。但し、「靑蛙」などは例外で、水田の傍の土に孔を穿ちその中で産卵する。卵は粘液を搔き廻した泡に包まれて塊となつて居るが、追々發育が進んで「おたまじやくし」の形になり掛る頃には、泡は溶けて卵と共に水中に流れ落ちるからその先の生長は差支なく出來る。これなども産み放しではあるが産むときに已に子の生長に差支が生ぜぬだけの注意が拂はれて居る。淡水に産する「たなご」は、長い産卵管を用ゐて生きた「からす貝」の貝殻の内へ卵を産み込むが、産んだ後は、少しも構わぬ。卵は貝の鰓の間で發育し、小さな魚の形までに生長してから水中に游ぎ出るのである。

[やぶちゃん注:「靑蛙」両生綱無尾目 Neobatrachia 亜目アオガエル科アオガエル亜科に属するアオガエル類で模式属はアオガエル属 Rhacophorus であるが、ここで丘先生は『水田の傍の土に孔を穿ちその中で産卵する。卵は粘液を搔き廻した泡に包まれて塊となつて居るが、追々發育が進んで「おたまじやくし」の形になり掛る頃には、泡は溶けて卵と共に水中に流れ落ちる』と描写されていることから、これはアオガエル属シュレーゲルアオガエル Rhacophorus schlegelii か。ウィキの「シュレーゲルアオガエル」を見ると、『外見はモリアオガエルの無斑型に似ているが、やや小型で、虹彩が黄色いことで区別できる。また、ニホンアマガエルにも似ているが、より大型になること、鼻筋から目、耳にかけて褐色の線がないこと、褐色になってもまだら模様が出ないことなどで区別できる』とし、『水田や森林等に生息し、繁殖期には水田や湖沼に集まる。繁殖期はおもに』四月から五月に『かけてだが、地域によっては』二月から八月まで『ばらつきがある』。『繁殖期になるとオスは水辺の岸辺で鳴く。鳴き声はニホンアマガエルよりも小さくて高く、「コロロ・コロロ」と聞こえる。地中の小さな穴の中で鳴く場合が多く、声の元を凝視しても姿は確認できない』。一匹の『メスに複数のオスが集まり抱接』し、『畦などの水辺の岸辺に、クリーム色の泡で包まれた』三~一〇センチメートルほどの『卵塊を産卵』し、泡の中には二百個から三百個ほどの『卵が含まれるが、土中に産卵することも多くあまり目立たない』。『孵化したオタマジャクシは雨で泡が溶けるとともに水中へ流れ落ち、水中生活を始める』とあって、さらに、『地域によってはタヌキがこの卵塊を襲うことが知られる。夜間に畦にあるこの種の卵塊の入った穴を掘り返し、中にある卵塊を食うという。翌朝に見ると、水田の縁に泡と少数の卵が残されて浮いているのが見かけられる』とあることから、丘先生のこれは本シュレーゲルアオガエル Rhacophorus schlegelii に同定したい(下線やぶちゃん)。

「たなご」条鰭綱骨鰾上目コイ目コイ科タナゴ亜科タナゴ属タナゴ Acheilognathus melanogaster 。ウィキの「タナゴ」によれば、『「タナゴ」の呼称は本種の標準和名であるとともにタナゴ亜科魚類の総称としても用いられるので、厳密に本種だけを指すかタナゴ亜科全般を指すか、用法に注意する必要がある。各種フィールド調査においても、タナゴ亜科のどの種なのかを明確に個体識別せずに「タナゴ」とし、後刻混乱するケースが間々見受けられる。専門の研究者は「モリオカエ」(moriokae:本種のシノニム)と呼称して混同を防いでいる』。『関東地方の釣り人の間では、ヤリタナゴやアカヒレタビラとの混称でマタナゴという別名が用いられることもある。また、海水魚 Ditrema temmincki の和名は「ウミタナゴ」で、本種と姿形が似ることからその名が付けられたが、分類上はスズキ目ベラ亜目ウミタナゴ科に属するまったく別の魚である』。タナゴ Acheilognathus melanogaster は『日本固有種で、本州の関東地方以北の太平洋側だけに分布する。分布南限は神奈川県鶴見川水系、北限は青森県鷹架沼とされ、生息地はこの間に散在する。各地で個体数が激減しており、絶滅が危惧される状況となっている』体長は六~十センチメートルで、『タナゴ類としては前後に細長く、日本産タナゴ類』十八種の『うちで最も体高が低いとされる。体色は銀色で、肩部には不鮮明な青緑色の斑紋、体側面に緑色の縦帯、背鰭に』二対の白い斑紋が入り、口角に一対の口髭を持つ。『繁殖期になるとオスは鰓ぶたから胸鰭にかけて薄いピンク色、腹面は黒くなり、尻鰭の縁に白い斑点が現れる。種小名 melanogaster は「黒い腹」の意で、オスの婚姻色に由来する。メスには明らかな婚姻色は発現せず、基部が褐色で先端は灰色の産卵管が現れる』。『湖、池沼、川の下流域などの、水流がないか緩やかで、水草が繁茂する所に生息する。食性は雑食で、小型の水生昆虫や甲殻類、藻類等を食べる』。『繁殖形態は卵生で、繁殖期は』三~六月で、『産卵床となる二枚貝には大型の貝種を選択する傾向がみられ、カラスガイやドブガイに卵を産みつける。卵は水温』摂氏十五度前後では五十時間ほどで『孵化し、仔魚は母貝内で卵黄を吸収して成長する。母貝から稚魚が浮出するまでには』一ヶ月ほどかかる。『しかしそのような貝もまた減少傾向にあることから個体数の減少に拍車をかけている』とある。カラスガイ及びドブガイが次注を参照のこと。

「からす貝」前注で見た通り、タナゴ Acheilognathus melanogaster が産卵のために利用する(というよりも――卵を産み付けて幼体を寄生させる宿主――というべきで、以前に述べた通り、私は「片利共生」などというまやかしの学術用語は認めない。鰓に産み付けられることで宿主の酸素供給はそれが有意であるかないかは別として明らかに阻害されるし、そもそも産みつけられる貝側には利益は全くないからである、これは幼体の「寄生」であり、タナゴの幼体は「寄生虫」である)貝はカラスガイ一種ではない。斧足綱古異歯亜綱イシガイ目イシガイ科イケチョウ亜科カラスガイGristaria Plicata

及び同属の、

琵琶湖固有種メンカラスガイCristaria plicata clessini

(カラスガイに比して殻が薄く、殻幅が膨らむ)と、大型で別属の、

イシガイ科ドブガイ属ヌマガイSinanodonta lauta(ドブガイA型)

と、その小型種である、

タガイ Sinanodonta japonica(ドブガイB型)

の四種を挙げるべきであろう。なお、このカラスガイとドブガイとは、非常に良く似ているが、貝殻の蝶番(縫合部)で識別が出来、カラスガイは左側の擬主歯がなく、右の後側歯はある(擬主歯及び後側歯は貝の縫合(蝶番)部分に見られる突起)が、ドブガイには左側の擬主歯も右の後側歯もない。私の電子テクスト寺島良安の「和漢三才圖會 卷第四十七 介貝部」の「蚌(どぶがい)」及び「馬刀(からすがい)」の項の注で詳細に分析しているので参照されたい。]

 

 昆蟲類も多くは卵を産み放しにする。變態の行はれるために、幼蟲と成蟲とでは、住處も食物も敵も違ふのが常でゐるが、成蟲が卵を産むときには成蟲の習性には構はず、必ず幼蟲の發育に都合の好い場處を選ぶ。例へば「とんぼ」の成蟲は空中を飛んで、昆蟲を捕へ食ふが、卵は必ず水の中に産む。これは「とんぼ」の幼蟲は水の中で發育するからである。また蝶の成蟲は花の蜜を吸ふだけであるが、卵は必ず草木の葉に産み附ける。これは蝶の幼蟲は毛蟲または芋蟲であつて、草木の葉を食ひ生長するからである。蚊が汚水に卵を産み落し、蠅が腐肉に卵を産み附けるのも同じ理窟で、單に産み放してさへ置けば、幼姦は食物の缺乏なしに必ずよく育つからである。

Kaikonoujibae

[蠶の蛆蠅]

[やぶちゃん注:これは国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像トリミングし、補正を加えた。]

 

 寄生生活をする昆蟲の卵の産みやうは更に面白い。蠶に寄生する蛆の親は一種の蠅であるが、卵を必ず桑の葉の裏に産み附ける。かうして置けば、後は全く捨て置いても、以前に蠶に食はれ、その體内で發育して大きな蛆となり、蠶の體から匍ひ出し、地中へ潜り込んで蛹となり、翌年蠅となつて飛び出す。蝶・蛾の幼蟲に寄生する小さな蜂の類は隨分數多くあり、そのため年々知らぬ間に農作物の害蟲が餘程まで防がれて居るわけであるが、これらの小蜂は卵を必ず蝶・蛾の幼蟲の體に産み附ける。また「卵蜂」といひ、蝶・蛾の卵に自分の微細な卵を産み込んで歩く小さな蜂もある。これらはいづれも翅の生えた成蟲の生活狀態は幼蟲とは全く違うて、蝶・蛾の幼蟲や卵とは何の關係もないに拘らず、産卵するには必ずそれか出る幼蟲の育つやうな宿主動物を選んで、これに産み附ける本能を持つて居る。この點でなほ不思議に感ぜられるのは「尾長蜂」類の産卵である。この類の幼蟲は樹木の幹の内部に棲む他の昆蟲の幼蟲に寄生するが、成蟲が卵を産むに當つて何らかの感覺によつて、幹の内の幼蟲の居る場處を知り長い産卵管で外から幹に孔を穿ち、内に居る幼蟲の體、もしくはその附近に卵を産み入れる。尾長蜂の産卵管が體に比べて數倍も長いのはそのためでゐる。卵から孵つて出た小さな蛆は、宿主である幼蟲の體内で生長し、終にこれを斃し、後蛹の時代を經て皮を脱ぎ親と同じ形の成蟲となつて飛び出すのである。

[やぶちゃん注:「蠶に寄生する蛆の親は一種の蠅である」これは双翅(ハエ)目短角(ハエ)亜目ハエ下目ヒツジバエ上科ヤドリバエ科 Tachinidae に属するカイコノウジバエ Blepharipa sericariae を指すものと思われる。成虫の体長は一三~一六ミリメートルと大型の蠅で全体に黒色を帯び、胸部は黒色の短毛が密生して長い剛毛が多い。翅は透明で基半部は褐色を帯びる。腹部は第二節及び第三節の前縁と両側部が赤褐色を呈し、灰色粉を持つ(ここまでは主に「ブリタニカ国際大百科事典」に拠る)。宿主を殺す捕食寄生者であり、本種は養蚕では大きな被害が出る(食い破られた繭も本使用が出来なくなる)深刻な害虫である。

「蝶・蛾の幼蟲に寄生する小さな蜂の類は隨分數多くあり」ウィキの「寄生蜂から引く。『生活史の中で、寄生生活する時期を持つものの総称で』、『分類学的には、ハチ目細腰(ハチ)亜目寄生蜂下目 Parasitica に属する種がほとんどであるが、ヤドリキバチ上科』(ハバチ亜目 Symphyta )、『セイボウ上科』(ハチ亜目有剣下目 Aculeata )『など、別の分類群にも寄生性の種がいる』。『寄生バチはハチの中のいくつかの群に当たる範疇で、分類群としては、コバチ、コマユバチ、ヒメバチなどがある。幼虫が寄生生活を行うハチを指す言葉で、植物に寄生するものと、動物に寄生するものがあ』り、『植物に寄生するものでは、卵は植物の組織内部に産まれ、幼虫はその中で成長する。植物のその部分は往々にして膨れて虫こぶを形成する』。『動物に寄生するものは、一匹のメスが宿主に卵を産みつける。卵から孵った幼虫は、宿主の体を食べて成長する。その過程では宿主を殺すことはないが、ハチの幼虫が成長しきった段階では、宿主を殺してしまう、いわゆる捕食寄生者である』。『外部寄生のものは宿主の体表に卵が産み付けられ、幼虫はその体表で生活する。内部寄生のものも多く、その場合、幼虫が成熟すると宿主の体表に出てくるものと、内部で蛹になるものがある』。『宿主になるのは昆虫とクモ類で、昆虫では幼虫に寄生するものが多いが、卵に寄生するものもある。寄生の対象となる種は極めて多く、昆虫類ではノミやシミなど体積の問題がある種を除いて寄生を受けない種はないといわれ、すでに寄生中のヤドリバチやヤドリバエの中にすら二重三重に寄生する。ただし、一部の種には後から寄生してきたハチを幼虫が食い殺す例もあることが発見されている』。『動物に寄生する寄生バチは、いわゆる狩りバチと幼虫が昆虫などを生きながら食べ尽くす点ではよく似ている。相違点は、典型的な狩りバチでは雌親が獲物を麻酔し、それを自分が作った巣に確保する点である。その点、寄生バチは獲物(宿主)を麻酔せず、またそれを運んで巣穴に隠すこともない。しかし中間的なもの(エメラルドゴキブリバチなど)が存在し、おそらく寄生バチから狩りバチが進化したと考えられ』ているとある。リンク先には、ツチバチ科 Scoliidae(ファーブルの「昆虫記」で観察するファーブルと一緒になって、息をひそめて胸をわくわくさせながら読んだ「コガネムシを狩るツチバチ」のあれである)・コマユバチ科 Braconidae・ヒメバチ科 Icheumonidae の簡単な解説が載り、コバチ(コバチ上科 Chalcidoidea)はウィキの「コバチ」へのリンクが施されているので参照されたい。

「卵蜂」昆虫の卵に寄生する寄生蜂は数多くいるが、ここは細腰(ハチ)亜目コバチ上科タマゴコバチ科 Trichogrammatidae に属する種群か。「日本植物防疫協会」公式サイト内の「タマゴコバチ科の蜂の特徴」によれば、成虫でも一ミリ以下の者が多く、同科に属するものは後脚の附節が三節『であるという絶対的な特徴を持つので,他の蜂から容易に区別できる。この科は世界中に分布し,多様化が進んで』九十属ほどが記録されている、とある。

『「尾長蜂」類』寄生蜂下目ヒメバチ上科ヒメバチ科オナガバチ亜科Rhyssinae に属する種群。]

Onagabatinosanran

[尾長蜂の産卵]

[やぶちゃん注:これは国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像トリミングし、補正を加えた。これは本文と絵の右手の描画から、本来は縦方向で木の幹の中の芋虫へ産卵管を刺している図である。昆虫の苦手な私には種までは同定出来ない。]
 
 

 以上幾つかの例で示した通り、動物には、卵を産み放したまゝで、その後少しも世話をせぬものが非常に多いが、かゝる場合には必ず非常に多くの卵を産むか、または子がよく育つべき場處を選んで産み附けるかして、特に親がこれを保護せずとも種族の維持繼續が確に出來るだけの道は具はつてゐる。

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