眞冬の夜の雨に 立原道造
Ⅴ 眞冬の夜の雨に
あれらはどこに行つてしまつたか?
なんにも持つてゐなかつたのに
みんな とうになくなつてゐる
どこか とほく 知らない場所へ
真冬の雨の夜は うたつてゐる
待つてゐた時とかはらぬ調子で
しかし歸りはしないその調子で
とほく とほい 知らない場所で
なくなつたものの名前を 耐へがたい
つめたいひとつ繰りかへしで――
それさへ 僕は 耳をおほふ
時のあちらに あの靑空の明るいこと!
その望みばかりのこされた とは なぜいはう
だれとも知らない その人の瞳の底に?
[やぶちゃん注:底本は国立国会図書館近代デジタルライブラリーの昭和二二(一九四七)年角川書店刊立原道造「詩集 優しき歌」の画像を視認した。生前の既刊詩集「曉と夕の詩」の第五曲。]