騎士夢
それは靜止した畫像に見えた。額(がく)も見えなかつた。僕の夢のスクリイン一杯にあつた。どんよりとした空と少し許りの陰鬱な沼地を配した荒地が背景に見える西洋の騎士の半身畫であつた。面頰(めんぼほ)を外しただけで此方の左前方を向いてゐる、無精髭に蔽はれた顔面だけが見える灰色の甲冑姿であつた。僕はその「繪」を、レムブラントか誰かの作品の一角に、確に見たことがあるやうな氣がした。しかし良く見れば――その顏は僕自身なのであつた。さう思つた時、確にその顏が――にやりと笑つた。……
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