虹の輪 立原道造
虹の輪
あたたかい香りがみちて 空から
花を播(ま)き散らす少女の天使の掌が
雲のやうにやはらかに 覗いてゐた
おまへは僕に凭(もた)れかかりうつとりとそれを眺めてゐた
夜が來ても 小鳥がうたひ 朝が來れば
叢(くさむら)に露の雫(しづく)が光つて見えた――眞珠や
滑らかな小石や刃金(はがね)の叢に ふたりは
やさしい樹木のやうに腕をからませ をののいてゐた
吹きすぎる風の ほほゑみに 撫(な)でて行く
朝のしめつたその風の……さうして
一日(ひとひ)が明けて行つた 暮れて行つた
おまへの瞳(ひとみ)は僕の瞳をうつし そのなかに
もつと遠くの深い空や晝でも見える星のちらつきが
こころよく こよない調べを奏でくりかへしてゐた
[やぶちゃん注:底本は昭和六一(一九八六)年改版三十版角川文庫刊中村真一郎編「立原道造詩集」を用いた。第二連三行目の「刃金」の「刃」は異体字で、「刅」の右側の「ヽ」を除去した字形であるが、表記出来ないので「刃」とした。]
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