橋本多佳子 生前句集及び遺稿句集「命終」未収録作品(8) 昭和八(一九三三)年 十三句
昭和八(一九三三)年
春日御祭三句
春日野の大杉立てりくらべ馬
騎手現れぬ紅葉の枝を襟にさし
朱の紐にくくりし袖やくらべ馬
[やぶちゃん注:「春日御祭」奈良市の春日大社の摂社若宮神社の奈良公園周辺で毎年十二月十七日を中心に数日に渡って行われる祭礼「春日若宮おん祭(かすがわかみやおんまつり)」の内、十二月十七日の正午より始まる「お渡り式」の第七番の「競馬(けいば) 」、第八番の「流鏑馬(やぶさめ)」、第九番の「将馬(いさせうま)」辺りの嘱目吟か。]
來るといふ使の來たり春の雨
藤の下車舍(やどり)は片廂
大阪に更衣して母の旅
えびの子と藻の花とありざるの中
[やぶちゃん注:「藻の花」湖沼や小川などに生えるさまざまな藻類や水草(顕花植物類)の花を指し、夏の季語であるが、これ単独でロケーションも分からぬので、同定は不能。]
すいすいと子えびのおよぐざるの中
厨たのし掘り來し只の潮ふける
暖房や南のくにのくだものを
冷凍會社を見る
雪かぶる赤き燈つけり冷藏庫
篝火や鵜匠の烏帽子とがりたる
洗ひたる我黑髮のへりにけり
[やぶちゃん注:以上、『ホトトギス』掲載分。多佳子、三十四歳。]
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