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2015/10/17

生物學講話 丘淺次郎 第十六章 長幼の別(5) 四 幼時生殖(2) タマバエの例

 昆蟲が植物の若芽などに卵を産み附けると、そこに「蟲癭」と名づける團子のやうな塊が出來ることがある。五倍子と稱して染料やインキ製造の材料となるものは、その有名な例であるが、かやうに植物に塊を造らせる昆蟲は、それぞれ種類が決まつており、植物が違へば卵を産み附ける昆蟲の種類も、それから出來る塊の形狀・性質も各々違ふ。その中に一種極めて小さな蠅の類があるが、これがまた幼時生殖を行ふ。しかも前の「アホロートル」とは違うて、生殖と共に幼兒は死んでしまふ。この蠅は「ありまき」などと同じく、一年中に何度も代を重ねるものであるが、夏の間は卵から孵つた蛆が少しく生長するとその體内に數多くの蛆が生じ、親なる蛆の體を食ひ破つて匍ひ出して、少しく生長するとまたその體内に蛆が生ずる。かくて幾代かを過ぎると、次に蛆が蛹となり蛹が脱皮して蠅の形をした成蟲が飛び出すのである。昆蟲類では成蟲と幼蟲の形の相違が、蛙や「ゐもり」と「おたまじやくし」との相違よりもなほ著しいから、幼時生殖を行ふ場合には、初から一點の疑も起らぬ。

[やぶちゃん注:「蟲癭」「ちゆうえい(ちゅうえい)」或いはこれで「むしこぶ」と読む。「虫瘤」で英語では“gall”(ゴール)と称し、植物組織が異常な発達を起こして出来る癭(こぶ)状の突起物を指す。これは様々な寄生生物の寄生によって植物体が異常な成長をすることで形成されるものである。参照したウィキの「虫こぶ」によれば、『虫こぶと呼ばれるものは葉に見られるほか、草類の茎や樹木の細枝、花や果実などに見られることもある。その名の通りに昆虫の寄生によって形成されるものが多いが、ダニや線虫によるものや、菌類によるもの、細菌によるものもある。それらはその原因によってダニえいや菌えい、細菌ならクラウンゴールなどと呼び分けることもあるが、すべてまとめて虫こぶという場合も多い。ゴールという語はそれらすべてに適用される』。『植物以外にも適用される例もあり、たとえばパラシテラというカビは近縁のケカビに寄生するが、その際に菌糸の付着部分がふくれるのもゴールと呼ぶ』。『また、その原因となった昆虫により、虫こぶ自体に「~フシ」という名前がつけられている』。『ハチ目のタマバチの仲間やハエ目のタマバエの仲間、カイガラムシなどが産卵管を植物体に差し込み、内部に卵を産む。卵の状態ではそれほど目立たない虫こぶも、幼虫、蛹と成長していくうちに大きく膨れ上がり色づいて立派な虫こぶとなる』。『虫こぶは時には果樹などにもできる。害虫として作物に寄生する昆虫が虫こぶを作るものの場合、表面に昆虫が露出していないので駆除がしづらい。さらに病気を持ち込むこともあり、タマバチやタマバエは厄介な害虫として君臨している』。『役に立つ例もある。オークやヌルデの虫こぶにはタンニンが豊富に含まれるため、それぞれ皮革のなめし剤やお歯黒の材料として用いられた』(次注参照)。『マタタビ酒と呼ばれるものの原料(通称マタタビの実)はマタタビの生果ではなく、マタタビミタマバエによる「マタタビフクレフシ」という虫こぶとなった果実である』。また、『ネコやトラなどネコ科の動物が、いわゆるマタタビ酔いを起こすのは、マタタビ生果ではなく、当該寄生昆虫によってマタタビの果実が変化した虫癭果(香気を発しやすいよう、粉末にすると効果が高い)である』とある。丘先生が以下で語られている「蠅」の例は、ここに出た「タマバエ」で、これはウィキタマバエによれば、世界で実に約四千六百種以上が記録されている有翅昆虫亜綱新翅下綱内翅上目ハエ目長角亜目ケバエ下目キノコバエ上科タマバエ科 Cecidomyiidae に属する昆虫の総称で、その中でも幼生生殖を行うのは Mycophila 属と記されてある(同ウィキの「分類」から見ると、属名の綴りから、タマバエ科の三亜科 CecidomyiinaeLestremiinaePorricondylinae Cecidomyiinae 亜科 Mycodiplosini 族に属するように思われる)。なお、「ハエ」と名がつくものの、分類学上では「カ」に近い仲間であるとあり、タマバエの殆どの種は成虫が体長一~三ミリメートル程度と『小型である。触角は長く、翅は毛で覆われている』。『タマバエの多くの種は外部寄生性であり、幼虫がハチ目の昆虫や植物などに寄生して生活していることが知られている。植物を利用する種は虫こぶを形成する事が多い』とある。歌峰由子氏のブログ「Sideway」の幼生生殖。生物は何故生きるのか。(β版)に、丘先生より分かり易い寄生性「タマバエ」の生活環の解説が載る。但し、御本人が『エグイ話なので苦手な方ご注意~』とあるから、クリックは自己責任で、どうぞ。確かに、その実態を想像するとかなりクるものがある。

「五倍子」これは「ごばいし」或いは「ふし」(前注参照)と読み、ウィキヌルデによれば、ムクロジ目ウルシ科ヌルデ属ヌルデヌルデ(白膠木)Rhus javanica 或は変種ヌルデ Rhus javanica var. chinensis の葉にヌルデシロアブラムシが寄生して形成される大きな虫癭から抽出した染料或いは漢方薬を言う。この虫癭には『黒紫色のアブラムシが多数詰まっている。この虫癭はタンニンが豊富に含まれており、皮なめしに用いられたり、黒色染料の原料になる。染め物では空五倍子色』(うつぶしいろ:やや褐色がかった淡い灰色)『とよばれる伝統的な色をつくりだす。インキや白髪染の原料になるほか、かつては既婚女性』及び十八歳以上の『未婚女性の習慣であったお歯黒にも用いられ』、『また、生薬として五倍子(ごばいし)あるいは付子(ふし)と呼ばれ、腫れ物、歯痛などに用いられた』とある(但し、猛毒のあるトリカブトの根も同じく「付子」で「ふし」と読むので混同しないよう注意を要する、と注意書きがある)。

「ありまき」既注であるが再掲する。アリマキ(蟻牧)で昆虫綱有翅亜綱半翅(カメムシ)目腹吻亜目アブラムシ上科のアブラムシ科 Aphididae・カサアブラムシ科 Adelgidae・ネアブラムシ科 Phylloxeridae に属するアブラムシ類の別称。アリとの共生関係の観察から、古くよりかく呼称された。子供らと話していると、彼らを何かの昆虫の幼虫と勘違いしている者が多いので注することとする。また、ウィキの「アリマキ」によれば、体内(細胞内)に真正細菌プロテオバクテリア門γプロテオバクテリア綱エンテロバクター目腸内細菌科ブフネラ Buchnera 属の大腸菌近縁の細菌を共生させていることが知られ、ブフネラはアブラムシにとって必要な栄養分を合成する代わりに、『アブラムシはブフネラの生育のために特化した細胞を提供しており、ブフネラは親から子へと受け継がれる。ブフネラはアブラムシの体外では生存できず、アブラムシもブフネラ無しでは生存不可能である』とあり、更に二〇〇九年には『理化学研究所の研究によりブフネラとは別の細菌から遺伝子を獲得し、その遺伝子を利用しブフネラを制御している』という恐るべきメカニズムが判明している。是非、以下の理化学研究所の「アブラムシは別の細菌から獲得した遺伝子で共生細菌を制御」という「理研ニュース 二〇〇九年五月号」の記事をお読みになられることをお奨めする。]
 
Kiseibatiyoutyu

[寄生蜂の幼蟲]

[やぶちゃん注:これは本文の「タマバエ」に関連して同様のエグい幼生生殖環を持つ寄生性のハチの幼虫の図だけを示したものらしい(それとなく確かに体内に見える)。流石に、この図だけでは如何なるハチの幼虫かは私には分からない。悪しからず。]

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