武蔵石寿「目八譜」 烏介藤壷粘着ノモノ
[やぶちゃん注:「巻十五 粘着」より。画像は国立国会図書館デジタルコレクションの当該書の当該帖の画像を用いた。後注するが、これは、
斧足綱翼形亜綱イガイ目イガイ科イガイ Mytilus coruscus
の殻表面に附着寄生した、
甲殻亜門顎脚綱鞘甲(フジツボ)亜綱蔓脚(フジツボ)下綱完胸上目無柄目フジツボ亜目フジツボ上科フジツボ科アカフジツボ亜科オオアカフジツボ属アカフジツボMegabalanus
rosa
である。なお、以前の諸図鑑ではこのアカフジツボをフジツボ属として Balanus
rosa を併記(シノニム)したものが多いが、現在は以上のようにオオアカフジツボ属アカフジツボMegabalanus として落ち着いている。現行で最新最大の学術的海岸動物図鑑である西村三郎編著「原色検索日本海岸動物図鑑[Ⅱ]」(保育社平成七(一九九五)年刊)でも本学名のみを掲げている。
「烏介」本記事を読まれる方ならば言わずもがな乍ら、これは淡水産の大型種である斧足綱古異歯亜綱イシガイ目イシガイ科カラスガイ Cristaria plicata ではなく、くどいが、翼形亜綱イガイ目イガイ科イガイ Mytilus coruscus の地方名であり流通名でもしばしば耳にする別名である。属名“Mytilus”(ミティルス)は同属のヨーロッパ産のムール貝(ムラサキイガイ Mytilus galloprovincialis 。言っておくと、我々が普通に買い、普通に食っているのは圧倒的にこの外来種である)意味するギリシャ語“mitylos”に由来する。因みに英語の“mussel”はギリシャ語の鼠を意味する“mys”を語源とする。参照した荒俣宏氏の「世界大博物図鑑 別巻2 水棲無脊椎動物」の「イガイ」の記載によれば、『殻の形や色が鼠を思わせるためか』とある(なお英語でも面倒なことに、この“mussel”、イガイ科Mytilidae の(ムラサキ)イガイ類を指す以外に、別にイシガイ科 Unionidae の淡水産二枚貝の総称でもあるので注意が必要である。これは私の「日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第十三章 アイヌ 8 札幌にて(Ⅴ)」をも参照されたい)。なお、本種をもっと小さな、イガイと一見形状が似ているが、遙かに小さい別種、例えばイガイ科 Septifer 属クジャクガイSeptifer bilocularis 、同属ミノクジャクガイ Septifer bilocularis pilosus 、同属ムラサキインコ Septifer virgatu 、イガイ科ヒバリガイ亜科ヒバリガイ Modiolus nipponicus 、イガイ科 Trichomya 属ケガイ Trichomya hirsuta などを同定候補とする向きもあろうかと思われるが、殻表面の黒味が強いこと、アカフジツボとのスケール比から私はイガイ Mytilus coruscus に比定するものである。
「藤壷」赤紫色を呈するフジツボは他にも、大型種のオオアカフジツボ属オオアカフジツボ Megabalanus volcanoや、アカフジツボと同直径の中型種ミナミアカフジツボ Megabalanus occator なども同定候補になろうが、やはり附着のイガイとのスケール比と、周殻表面の状態(オオアカフジツボやミナミアカフジツボでは粗いか、或いは針状の突起を有するのに対し、アカフジツボMegabalanus
rosa では平滑で、少なくとも描画では平滑に見える)から、かく比定した。]
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