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2015/10/01

橋本多佳子句集「命終」 昭和三十七年(4) 鵜飼/角伐り/他

   *

 

踏み込んで大地が固しげんげ畑

 

げんげ畑坐ればげんげ密ならず

 

蝶翅をつかへり風の群れ来るに

 

  東大寺戒壇院

 

寒き戒壇人が恋しくなりて降る

 

 鵜飼

 

  山下幹司氏を訪ふ。

 

鵜飼見る盲ひ鵜匠と務並べ

 

鵜舟より火花とびくる盲鵜匠

 

かなしき距て鵜篝と盲鵜匠

 

盲鵜匠疲れ鵜羽うつ翼風

 

[やぶちゃん注:「山下幹司」(明治二七(一八九四)年~昭和四〇(一九六五)年)大正から昭和の鵜匠。注では名は既出であるが、データを示す。岐阜県出身で岐阜中学卒。大正五(一九一六)年に宮内省式部職鵜匠に任じられた。昭和一四(一九三九)年にサンフランシスコ万国博覧会で長良川鵜飼を世界に紹介し、岐阜市の観光の目玉に育てた(講談社「日本人名大辞典」に拠った)。]

 

   *

 

出陣の稚き眉目の武者人形

 

牡丹畑日熱りのいま入り難し

 

みごもりて盗みて食ひて猫走る

 

捨猫の寄りかたまるを日がぬくめ

 

捨猫によびかけられて見送らる

 

わが寝屋に出でし百足虫は必殺す

 

百足虫殺さむとすわれの力頼み

 

雨風に巣藁のなびき法華尼寺

 

[やぶちゃん注:「巣藁」歳時記に「巣藁雀(すわらすずめ)」がある。雀の巣と一応採っておくが、私は雀ではないと個人的には思う。「法華尼寺」不詳。固有名詞ではなく、どこかの日蓮宗の尼寺かと思われる。識者の御教授を乞う。]

 

くろがねの甲虫死して掌に軽し

 

悲しき夏百日のはじめの日

 

わが髪にぶんぶんもつれ啼きわめく

 

蜥蜴食ひ猫ねんごろに身を舐める

 

[やぶちゃん注:選ぶ語とその音律のエッジが如何にも多佳子らしいが、往年の切れがないのは少し淋しい。]

 

猫走る白斑野分の暮れんとして

 

野分の燈鳴かぬちちろがうつむきて

 

炎天下夫婦遍路の白二点

 

[やぶちゃん注:これは多佳子と亡き夫豊次郎の幻像である。と同時に――私と「誰か」でもある――]

 

うろこ雲声出すことを禁じられ

 

いのち守る秋の簾を地上まで

 

月祀る起きて坐りて月に照り

 

蜻蛉の翅枯葉のごとく指ばさむ

 

指の間に枯葉の音す蜻蛉の翅

 

蜂の巣をもやす殺生亦たのし

 

蜂巣もゆる紅き焰のふつと見え

 

もえ難き蜂巣仔蜂の生詰る

 

炎えてゐる巣よりこぼれて蜂白子

 

入日に蜂とべり焼きたる巣の蜂か

 

[やぶちゃん注:若い頃は、「蜻蛉の翅」以降の七句に私はぞくぞくした――しかし今――不思議に響いて――こない――]

 

 角伐り

 

角伐り場土壇場へ鹿追込めり

 

角伐り場血ぬれて土が傷つけり

 

角重し生きし鹿より伐りとつて

 

鋸の歯に鹿角(しかづの)最後まで硬し

 

走り去る男(を)鹿男の角失ひて

 

斎かれて鹿の伐り角枝交す

 

[やぶちゃん注:「斎かれて」は「いつかれて」で、ここでは鹿が角伐りをして貰い、神に仕える如く、人間から大事に世話をされて、の謂いであるが、そこには神鹿として心身の汚れを去って神の御使たるものとして仕えられてのニュアンスを言わずもがなに含む。]

 

角伐り場解きたるあとは野の平ら

 

角伐り場虹がかかりて凄惨に

 

犠牲の鹿投げ繩からみなほ駆ける

 

[やぶちゃん注:私は「縄」の字が生理的に嫌いである。敢えてここのみ「繩」とさせて戴いた。

 底本年譜の昭和三七(一九六二)年十月の条に、『十五日、奈良公園の「鹿苑」にて、角伐りを薫と見る。病後初めての吟行で、「寒い」と言い、しばらく見て去る』とある。]

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