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2015/10/10

民謠   立原道造

  民謠

   ――エリザのために――

 

絃(いと)は張られてゐるが もう

誰もがそれから調べを引き出さない

指を觸れると 老いたかなしみが

しづかに歸つて來た……小さな歌の器(うつは)

 

或る日 甘い歌がやどつたその思ひ出に

人はときをりこれを手にとりあげる

弓が誘ふかろい響――それは奏(かな)でた

 

(おお ながいとほいながれるとき)

 

――昔むかし野ばらが咲いてゐた

野鳩が啼(な)いてゐた……あの頃……

さうしてその歌が人の心にやすむと

 

時あつて やさしい調べが眼をさます

指を組みあはす 古びた唄のなかに

――水車よ 小川よ おまへは美しかつた

 

 

[やぶちゃん注:底本は昭和六一(一九八六)年改版三十版角川文庫刊中村真一郎編「立原道造詩集」を用いた。「エリザ」底本の中村氏の注によれば、これはSONATINE No.1冒頭の「はじめてのものにの「エリーザベト」で中村氏が注している『ドイツの作家『シュトルム』『の小説「みずうみ」の女主人公の名、めぐりあった少女をなぞらえたもの』の『エリザベートか?』と注する。]

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