枯木と風の歌 立原道造
枯木と風の歌
私はうそをつき芝居をする
自分をゆるしたすべてのお前に
私は默つて立つてゐる
ちやうどおこつた子供のやうに
枝は何と邪魔(じやま)なのだらう
うつかりするとそれは裏切る
私はにくしみの言葉を捨てて
風にささやきかける
あれは祈りだ 誘(さそ)ふ者に
そしてしづかにもう一度
水に映つたかげを眺める
いつまでも搖れないやうに
*
私がそんなに驅けるときに
お前はなんと悲しさうなのだ
お前はぢつと殘つて 啞のやうに
たゞ身を搖るばかりなのだ
―― ―― ―― ―― ――
私はもう次の木に行かう
それがお前にそつくりだつたら
私は身を投げる 光りながら搖れるものに
ここには扉もなく 姿もない
しづかに暗がりがのこりはじめる
[やぶちゃん注:【二〇二六年三月六日改稿】元は、底本として昭和六一(一九八六)年改版三十版角川文庫刊中村真一郎編「立原道造詩集」を用いたのだが、今回、立原道造の前期の草稿詩篇を電子化注している中で、この中村氏が拠ったものが、角川書店の旧全集(ここ〈一九五七年版〉/先行版はここ〈一九五〇年版〉)を底本にしたもので、そこでは、この第四聯の最終行が「 …… …… ……」になっていたのであるが、後の新全集(一九七一年刊)を見たところ、当該部(ここ)は以上のように、「―― ―― ―― ―― ――」になっていることを発見した。されば、そこを修正し、中村氏がルビを振った部分四箇所もカットし、さらに、Unicode導入以前の仕事であるので、正字不全があったのも修正した。]

