枯木と風の歌 立原道造
枯木と風の歌
私はうそをつき芝居をする
自分をゆるしたすべてのお前に
私は默つて立つてゐる
ちやうどおこつた子供のやうに
枝は何と邪魔(じやま)なのだらう
うつかりするとそれは裏切る
私はにくしみの言葉を捨てて
風にささやきかける
あれは祈りだ 誘(さそ)ふ者に
そしてしづかにもう一度
水に映つたかげを眺める
いつまでも搖れないやうに
*
私がそんなに驅(か)けるときに
お前はなんと悲しさうなのだ
お前はぢつと殘つて 啞(おし)のやうに
ただ身を搖るばかりなのだ
…… …… ……
私はもう次の木に行かう
それがお前にそつくりだつたら
私は身を投げる 光りながら搖れるものに
ここには扉もなく 姿もない
しづかに暗がりがのこりはじめる
[やぶちゃん注:底本は昭和六一(一九八六)年改版三十版角川文庫刊中村真一郎編「立原道造詩集」を用いた。]