雲の祭日 立原道造
雲の祭日
羊の雲の過ぎるとき
蒸氣の雲が飛ぶ毎に
空よ おまへの散らすのは
白い しいろい絮(わた)の列
帆(ほ)の雲とオルガンの雲 椅子(いす)の雲
きえぎえに浮いてゐるのは刷毛(はけ)の雲
空の雲……雲の空よ 靑空よ
ひねもすしいろい波の群
ささへもなしに薔薇(ばら)紅色に
ふと蒼(あを)ざめて死ぬ雲よ 黃昏(たそがれ)よ
空の向うの國ばかり……
また或るときは蒸氣の虹にてらされて
眞白の鳩は暈(かさ)となる
雲ははるばる 日もすがら
[やぶちゃん注:底本は昭和六一(一九八六)年改版三十版角川文庫刊中村真一郎編「立原道造詩集」を用いた。]