橋本多佳子 生前句集及び遺稿句集「命終」未収録作品(18) 昭和十八(一九四三)年 九句
昭和十八(一九四三)年
雁(母病篤くいそぎ上京)三句
夕燒くる運河ひとゆきひといそぎ
夜々の雁ふるさとに病む母に侍す
母とゐて母は雁がねはやわかず
[やぶちゃん注:これは前年の詠吟。昭和十七年十一月七日、多佳子の母津留は多佳子の看病と看取りを受け、東京にて享年八十二で亡くなった。]
笹子 二句
笹鳴の羽の幼なき雪をはね
[やぶちゃん注:「笹子」は「ささこ」と読み、は鶯の笹鳴きのこと。鶯が冬になって餌を求めるため、山を下りて人里で暮らし始めると、草藪の中でチャッチャッという地鳴きをすることを言う語で、「笹子鳴き」などとも称して晩冬の季語であるが、こう鳴くのは幼鳥に限らず、鶯の冬の鳴き方である。]
時雨更く市電わが乘る間をとまり
紅梅にわれは征く靴ふきそろへ
寒夜の燈ひとつに母と子とふたり
靑簾くらき起居のさわやかに
わくら葉の降るに急なり吾子を戀ふ
[やぶちゃん注:以上、『馬醉木』掲載分。多佳子、四十四歳。]
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