家族 室生犀星
家族
家族といふものは
綠の木かげで食事をしたり
樂しい話をしたりするものだらうか。
美しい妻を招(よ)んで
白い乳母(うば)ぐるまの幌(ほろ)を帆のやうに立てて
田舍(ゐなか)の徑(みち)をうたひながら行くのは
あれは樂しい家族でなくて何であらう。
だがあれは音樂ではなかつたか、
音樂に聞きとれた空想ではなかつたか。
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詩集「高麗の花」(大正13(1924)年刊)より。昭和42(1967)年新潮社刊「日本詩人全集15 室生犀星」を底本としたが、恣意的に漢字を正字化した。
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