橋本多佳子 生前句集及び遺稿句集「命終」未収録作品(36) 昭和三十六(一九六一)年 二十三句
昭和三十六(一九六一)年
息かけて何も為さざる手をぬくめる
[やぶちゃん注:この一句は『天狼』掲載分。二年後(昭和三八(一九六三)年)の亡くなる直前の年譜記載に、『右半身の麻痺障害増加』とあり、既にこの頃からそうした症状が出ていたものか。]
枝みかん枝柿ベッドいよいよ狭(せま)
[やぶちゃん注:前年の七月からの入院生活は、十二月十五日の退院で終わっているから、この句は位置的に見ても前年の入院中の詠である(但し、この年も九月の条に『身体の調子、悪くなる』とある)。以下の始めの方の四句ばかりも、季節から、前年末入院中のものとも思われる。]
仔猫かたまる日溜り落葉吹き溜り
婆婆恋や瞼に秋雨ざんざ降り
冬日雀しやべる嘴(くちばし)実にたのし
冬日浴触れれば蜂の生きてゐる
瘦身を起す爛々除夜の鐘
医家への道焼山が一夜に立つ
鬼追はれつゝ酒の香人の香吐く
鬼平らぎ節分月夜吾立てり
たゆたひて身につく雪一片の大
危を告げる鶯杣の一人仕事
干梅の熱きを天へ投げてうける
干梅の笊西の日に傾けよ
愛母におよばねど梅漬けて干す
道堰きてここにをどりの輪がめぐる
洗ひ髪ゆくところみなしづくして
手足恍惚顔なきをどりの衆
踊り唄太鼓が追うて月の空
ひとの眼も天もまぶしき鵙の朝
青き青き片足ばつた寝屋わけん
[やぶちゃん注:以上、『七曜』掲載分。]
夜の河を遡航エンジン冬来向ふ
こそかさと壁のごきぶり顔見知り
[やぶちゃん注:以上、『俳句』掲載分。多佳子、六十二歳。]
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