童(わらべ)と母 北原白秋
童(わらべ)と母
垂乳根(たらちね)の母の垂乳(たりち)に、おし縋(すが)り泣きし子ゆゑに、いまもなほ我を童とおぼすらむ、ああ我が母は。天つ日の光もわすれ現身(うつしみ)の色に溺れて、酒(さか)みづきたづきも知らず、醉ひ疲れ歸りし我を、酒のまばいただくがほど、悲しくもそこなはぬほど、醉うたらば早うやすめと、かき抱き枕あてがひ、衾(ふすま)かけ足をくるみて、裾)すそ)おさへかろくたたかす、裾おさへかろくたたかす、垂乳根の母を思へば泣かざらめやも
反歌
急に涙が流れ落ちたり母上に裾からそつと蒲團(ふとん)をたたかれ
ふつくらとした何とも云へぬかなしさよ蒲團の裾を母にたたかれて
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「雀の卵」より。底本は昭和四二(一九六七)年新潮社刊「日本詩人全集7 北原白秋」を用いたが、恣意的に正字化した。
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「雀の卵」より。底本は昭和四二(一九六七)年新潮社刊「日本詩人全集7 北原白秋」を用いたが、恣意的に正字化した。
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