落葉松 北原白秋
落葉松
一
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。
二
からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。
三
からまつの林の奧も
わが通る道はありけり。
霧雨(きりさめ)のかかる道なり。
山風のかよふ道なり。
四
からまつの林の道は
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。
五
からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり、
からまつとささやきにけり。
六
からまつの林を出でて、
淺間嶺(あさまね)にけぶり立つ見つ。
淺間嶺(あさまね)にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。
七
からまつの林の雨は
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつの濡るるのみなる。
八
世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
山川に山がはの音、
からまつにからまつのかぜ。
*
「水墨集」より。底本は昭和25(1950)年刊新潮文庫「北原白秋詩集」。
*
「水墨集」より。底本は昭和25(1950)年刊新潮文庫「北原白秋詩集」。
« 小泉八雲 落合貞三郎他訳 「知られぬ日本の面影」 第十七章 家の内の宮 (七) | トップページ | 露臺 北原白秋 »