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2015/11/28

生物學講話 丘淺次郎 第十七章 親子(3) 二 子の保護(Ⅱ)

Hasaminmusi_kera

[けら(左)   はさみ蟲(右)]

Hunnkorogasi

[黃金蟲]

[やぶちゃん注:以上二枚は国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像からトリミングし、補正を加えた。なお、「黃金蟲」の方は推定される糞とのスケール比や形状からは、所謂「スカラベ」、後注するコガネムシ上科コガネムシ科タマオシコガネ亜科 Scarabaeini 族タマオシコガネ属 Scarabaeus に属する種のように思われる。識者なら種まで同定出来るように思われる。御教授を乞う。]

 

 

 昆蟲類は多くは卵を産み放しにするが、中にはこれを保護する種類もある。例へば池の中に普通に居る「子負ひ蟲」などは、卵を雄の背の表面一杯に竝べ附著せしめ、雄はいつも子を負ふたまゝ水中を泳いで居るが、敵に遇へば逃げ去るから、子は無事に助かる。また「けら」の如きは、卵を産んでから雌がその側に居て護つて居る。蟻や蜂の類が卵・幼蟲などをよく保護し、養育することは誰も知つて居るであらうから、こゝには述べぬ。その他「はさみむし」といふ尻の先に鋏の附いた蟲は、西洋諸國では眠つて居る人の耳に入るといふ傳説のために恐れられて居るが、この蟲は卵を保護するのみならず、それから孵つて出た幼蟲をも愛して世話するといふことでゐる。また「黃金蟲」の類の中には卵を一粒産む毎に、馬や羊の糞でこれを包み、次第次第に大きく丸めて、終に親の身體よりも遙に大きな堅い球とするものがある。丸めたものを雌雄が力を協せて轉がして歩く。かうして幾つかの卵を産み、幾つかの大きな球を造り終れば、親は力が盡きて死んでしまふが、その有樣は恰も羊の糞を丸めるために、世の中に生まれて來たやうに見える。卵から孵つた幼蟲は、球の内部の柔い羊の糞を食うて生長し、終に球から匍ひ出す。「くも」の類は昆蟲類に比べると卵を保護するものが割合に多い。特に「走りぐも」と稱して、網を張らずに草の間を走り廻つて居る種類は、卵を産むとこれを球狀の塊とし、一刻も肌身を離さず始終足で抱へて居る。

[やぶちゃん注:「子負ひ蟲」水生昆虫である半翅(カメムシ)目異翅(カメムシ)亜目タイコウチ下目タイコウチ上科コオイムシ科コオイムシ亜科コオイムシ属コオイムシ Appasus japonicus。生態及び形態の良く似た大型のタガメ(コオイムシ科タガメ亜科タガメ属タガメ Lethocerus deyrollei)は近縁種と言える。ウィキの「コオイムシ」によれば、『昆虫類では珍しく、近縁種のタガメと同様にオスが卵を保護するという習性を持っているが、産卵場所に産み付けられた卵を保護するタガメと違い、メスはオスの背部に卵を産み、オスは背中に産み付けられた卵を持ったまま移動するという習性があり、それを子守りする人間の親に見立てて、「子負虫」と名付けられた』とある。但し、『孵化後にはオスは幼虫の世話をすることはなく、自分の子供でも捕食対象としてしま』い、『他の水生昆虫同様、幼虫間でも共食いは行われている』とあるのを附記しておく。

「けら」本邦で古来より「けら」と呼称し、その鳴き声が蚯蚓の鳴き声などと誤認されてきたそれは直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目コオロギ上科ケラ科ケラ属ケラ Gryllotalpa orientalis である(ケラ科 Gryllotalpidae GryllotalpaNeocurtillaScapteriscus の三属あるが、他の二属は南北アメリカにのみ棲息する)。積極的に土中を掘り進んで主に地中に棲息する。ウィキの「ケラ」によれば(記号の一部を変更した)、ケラの形状のうち、『前脚は腿節と脛節が太く頑丈に発達し、さらに脛節に数本の突起があって、モグラの前足のような形をして』おり、『この前脚で土を掻き分けて土中を進』むが、それ以外にも、『頭部と胸部がよくまとまって楕円形の先端を構成すること、全身が筒状にまとまること、体表面に細かい毛が密生し、汚れが付きにくくなっていること等』、モグラと著しく似た形態を持つ。『モグラは哺乳類でケラとは全く別の動物だが、前脚の形が似るのは収斂進化の例としてよく挙げられる。ケラ属のラテン語名“Gryllotalpa”“Gryllo”がコオロギ、“talpa”がモグラを意味する。また、英名“Mole cricket”も「モグラコオロギ」の意である』とあり、卵の保護については、『卵は巣穴の奥に泥で繭状の容器をつくってその中に固めて産みつけ密閉し、親がそばに留まって保護する。孵化する幼虫は小さいことと翅がないこと、よく跳ねること以外は成虫とよく似ており、しばらく集団生活した後に親の巣穴を離れて分散すると成虫と同様の生活をする』とある(下線やぶちゃん)。

「はさみむし」本邦では和名の「ハサミムシ」はどうも、昆虫綱革翅(ハサミムシ)目マルムネハサミムシ科Carcinophoridae (或いはハサミムシ科 Anisolabididae マルムネハサミムシ亜科 Anisolabidinae ともする)のAnisolabis 属ハマベハサミムシ Anisolabis maritima に与えられている異名(?)のようあるが、ウィキの「ハサミムシ」を見るに、分類が錯雑しており、例えば革翅(ハサミムシ)目 Dermaptera の現生種はヤドリハサミムシ亜目Arixenina・クギヌキハサミムシ亜目 Forficulina・ハサミムシモドキ亜目 Hemimerinaの三亜目に分かれるが、本種を含むマルムネハサミムシ科 Carcinophoridae は亜目を作らず、しかも世界で十一科千九百三十種以上、日本では四十種ほどが知られるとする。さらに驚くべきことに他の記載では、お馴染みのこのハサミムシ Anisolabis maritima でさえも、その生態はまるで解明されていないと書かれてもある。卵を保護する画像は「海野和男のデジタル昆虫記」の「卵を守るコブハサミムシ」がよい(画像で守るのは)。未読であるが、皆越ようせい氏文・写真の「ハサミムシのおやこ」(二〇〇八年ポプラ社刊)のネット上のレビューによれば、ハサミムシのは卵を保護するだけでなく、孵化後の幼虫をも保護し、最後には自らの体を子らの餌として与えて死ぬという驚くべき生態を持っているらしい。まさに――母は強し!――の感慨強し! なお、丘先生は「西洋諸國では眠つて居る人の耳に入るといふ傳説のために恐れられて居る」と書かれておられるが、私は物心ついたころから、遊び仲間内で同じことを言い合い、母も父もそう言っていた。だから夜になると内心、這い上がってきたハサミムシが耳に入るのではないかと恐れた。さればこれは西洋由来のものだったのだろうか? 私にはその自然さと恐怖体験から、どうも日本にも古くからあった迷信であるように思っていたのだが? 確かにウィキには『英語ではこれをearwig、ドイツ語ではohrwurmと言い、ともに「耳の虫」の意であるが、これは、欧米ではこの虫が眠っている人間の耳に潜り込み中に食い入る、との伝承があるためである』とは書かれているのだけれど……。入るだけではなくてハサミムシは耳から脳に入り込んで卵を産むとも考えられたとか、そうして産み付けられた女性が医師から宣告を受けた……というところまで行くと、何だかなの都市伝説ではあるが、事実、ハサミムシの尾部のそれは挟まれると結構痛いし、何で耳に入るのを怖れられたかを考えると、脳味噌に卵を産みつけるというのもまんざら、近現代のアーバン・レジェンドでもない気もしてこないではない。

『「黃金蟲」の類の中には卵を一粒産む毎に、馬や羊の糞でこれを包み、次第次第に大きく丸めて、終に親の身體よりも遙に大きな堅い球とするものがある』これは言わずもがなの、「糞転がし」「スカラベ(scarab)」、昆虫学では「糞虫」(ふんちゅう Dung beetle)或いは「食糞性コガネムシ」などと呼ばれる、鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科コガネムシ科及びその近縁の科に属する昆虫の中で、主に哺乳類の糞を餌とする多くの一群の昆虫を指す。ウィキの「糞虫」より引く。『動物の糞は、その動物が利用できないものを排出したものだが、他の動物には利用可能な栄養を含み、また消化の過程で追加される成分もある。そのため、動物の糞には、昆虫を含む多くの小型動物が集まる。ただし一般に糞虫と言われるのは、コウチュウ目の中で、コガネムシ科とその近縁なグループに属するものである。その大部分は、哺乳類、特に草食動物の糞を食べる』。『色は黒を中心としたものが多いが、金属光沢があるものや、ビロードのような毛があるものなどがいる。また、ダイコクコガネやツノコガネ、エンマコガネ類など、雄に角がある例も知られる。またフンコロガシは古代からその不思議な生態で注目された。ファーブルが昆虫記の中でこの仲間に何度も触れ、その習性を詳しく調べたことはよく知られている。実用面では、牧畜における糞の処理はこの類に大いに依存している』。『上記のように、この範疇に含まれる昆虫の範囲は科を超えており、逆にコガネムシ科の中でこう呼ばれるのはその一部にすぎない。また、実際には糞に集まらない、あるいは糞以外の栄養源も利用するのにこう呼ばれるものもある。実のところ、糞虫という名はその生態的な特徴を意味するのにかかわらず、実際にそう扱われるのは分類群のくくりで行われ、しかもその体系が大きく変化しているため、このような状態が生じているのである』。『フンコロガシやダイコクコガネなどは糞虫の典型であり、これに類似の、そして似た生態を持つものをまとめて、かつてはそれらのすべてをコガネムシ科に含め、その下位分類においてひとまとまりの群と見なした。これが糞虫の範囲である。しかしその後の分類体系の見直しの中でそれらは解体され、一部は独立科となったため、現在ではそれをとりまとめるくくりは存在していない。しかし、この群には一定の固定層であるマニアが存在し、その中では確固として『糞虫』というまとまりが存在してしまうのである』。一般に糞虫といわれる仲間と、それぞれの分類上の位置』は以下の通り(引用元の記載を私がやや変更し、且つ詳細に記してある)。

 コガネムシ上科コガネムシ科タマオシコガネ亜科 Scarabaeinae

 Scarabaeini 族タマオシコガネ属 Scarabaeus に属する俗に「フンコロガシ」と呼んだ一群

    ダイコクコガネ族ダイコクコガネ属ダイコクコガネCopris ochus

    ダイコクコガネ族エンマコガネ属 Onthophagus に属する種

  マグソコガネ亜科 Aphodiinae

    マグソコガネ Aphodius (Phaeaphodius) rectus

 コガネムシ上科センチコガネ科 Geotrupidae

  ムネアカセンチコガネ科 Bolboceratidae

  アカマダラセンチコガネ科 Ochodaeidae

  マンマルコガネ科 Ceratocanthidae

  アツバコガネ科 Hybosoridae

   等に属するセンチコガネ類及び上記のその類似種群

   (本邦の和名センチコガネは Geotrupes laevistriatus。本邦では他に、オオセンチコガネ Geotrupes auratus auratusと、奄美大島の固有種オオシマセンチコガネGeotrupes oshimanus が棲息する。センチコガネ科だけでも世界で三亜科二十五属約六百種を数える)

  コブスジコガネ科 Trogidae

   コブスジコガネ Trox sugayai

『新鮮な糞があると、匂いを嗅ぎつけてあちこちから集まってくる。その場で糞を食べるものもあるが、地下に穴を掘り、糞を運び込むものもいる』。『また、スカラベ』(タマオシコガネ属 Scarabaeus のこと)『は、糞から適当な大きさの塊を切り取り、丸めると足で転がして運び去ることからフンコロガシ(糞転がし)、またはタマオシコガネ(玉押し黄金)とも呼ばれる。このとき、頭を下にして、逆立ちをするような姿勢を取り、後ろ足で糞塊を押し、前足で地面を押す。古代エジプトではその姿を太陽に見立て、神聖視していたという。日本ではこの仲間は存在しないが、マメダルマコガネ』Panelus parvulus『がこれと同じ糞運びをすることが知られる』が、体長三ミリメートルと小さいので目につかないために、知られていない。『また、多くの種が子供のための食糧を確保する習性を持つ。センチコガネ類、エンマコガネ類は糞の下に巣穴を掘り、その中に糞を運び込み、幼虫一匹分の糞を小部屋に詰め、卵を産む。スカラベやダイコクコガネ類は、糞の下に部屋を作り、そこに運び込んだ糞を使って糞玉を作る。糞玉は初めは球形で、その上面に部屋を作り、産卵して部屋を綴じるので洋梨型か卵形になる。幼虫は糞玉内部を食い、そこで蛹になり、成虫になって出てくる』。『成虫は糞玉を作り上げると出て行くものもあるが、ずっと付き添って糞玉の面倒を見るものもある。ファーブルの観察によると、ダイコクコガネの一種で、糞玉に付き添う成虫を取りのけると、数日のうちに糞玉はカビだらけになり、成虫を戻すとすぐにきれいにしたと言う』(但し、この箇所には『要文献特定詳細情報』要請がかけられている)。『このような習性は、親による子の保護の進化という観点からも注目されている』。『糞虫は哺乳類の糞を分解する上で、重要な役割を持っている。地球上、それぞれの地域において、大型の草食哺乳類がおり、その糞を食う糞虫がいる』。『生態系における糞虫のもう一つの大きな役割は、種子分散である。哺乳類の糞に含まれる植物の種子は糞虫によって地中に埋められることで、発芽率が上昇する』。なお、『糞虫は形が美しいものも多く、コレクターも存在する』とある(下線やぶちゃん)。古代エジプトで再生と復活を象徴する聖なる虫とされ、王家の谷の壁画にも描かれたスカラベ(scarab)は私の偏愛物なればこそ、やはりウィキの「スカラベ」から引いておく。スカラベは、『甲虫類のコガネムシ科にタマオシコガネ属の属名及びその語源となった古代エジプト語。単独の種名ではないため、いくつもの種が存在する』。『アンリ・ファーブルが自身の著書『昆虫記』の中で研究したスカラベ・サクレには、タマオシコガネやフンコロガシという和名が充てられて紹介され、有名になった。ただ、その後にサクレはファーブルの誤同定であったことが判明し、和名もヒジリタマオシコガネへ改められている』(二〇一二年現在では『ファーブルの観察や採集のフィールドであった南仏各地は開発が進み』、スカラベは激減してしまった)。『おもに哺乳動物の糞を転がして球状化させつつ運び、地中に埋めて食料とする』が、『古代エジプトでは、その習性が太陽神ケプリと近似したものであることから同一視された。再生や復活の象徴である聖なる甲虫として崇拝され、スカラベをかたどった石や印章などが作られた。古代エジプトの人々は、スカラベはオスしか存在しない昆虫で、繁殖方法については精液を糞の玉の中へ注いで子供を作ると解釈していた』とある。……最近、勝手ないな、スカラベ……。因みに、我々にとって馴染みの「黃金蟲」は通常はコガネムシ科スジコガネ亜科スジコガネ族スジコガネ亜族コガネムシ属コガネムシ Mimela splendensを指すが、コガネムシ科ハナムグリ亜科カナブン族カナブン亜族カナブン属 Rhomborrhina 亜属カナブン Rhomborrhina japonica や、コガネムシ科ハナムグリ亜科ハナムグリ族ハナムグリ亜族ハナムグリ属ハナムグリ亜属ハナムグリ Catonia (Eucetonia) pilifera、コガネムシ科スジコガネ亜科スジコガネ族スジコガネ亜族スジコガネ属ドウガネブイブイ Anomala cupera・ヒメコガネAnomala rufocuprea・サクラコガネ Anomala daimiana などもみんな一緒くたにして「黄金虫」と我々は認識しているように思う。少なくとも似非博物学的な俳句作品などではその感が強いように私は思うのである。

「走りぐも」これは節足動物門鋏角亜門クモ綱クモ目クモ亜キシダグモ科ハシリグモ属 Dolomedes の一種と考えてよかろう。ウィキの「ハシリグモ」より引く。冒頭、ハシリグモ属 Dolomedes の類は、『大柄な徘徊性のクモである。素早く走ることが出来、また水辺に生活し、水面や水中で活動できるものも多い』とあり、丘先生が「草の間を走り廻つて居る種類」と記述しているのがやや気になる方がいるかも知れぬが、本種は本邦では十一種が知られ、最も知られる種はイオウイロハシリグモ Dolomedes sulfueus であるが、これに酷似したスジボソハシリグモ Dolomedes angustivirgatus やババハシリグモDolomedes fontus などは、『水辺から草地、林縁まで生息域が広い』とあり、『水辺以外の生息地に生活する種も多い』とあるので問題ない。『ハシリグモ属はキシダグモ科の中で、大柄で活動的な、時に美しい種を含む。徘徊性で網を張らずに獲物を捕らえる』(但し、『この属以外にもこの名を持つ例はある』とはある)。ハシリグモ属 Dolomedes の類は『水辺に生活する種が多く、それらは水面にアメンボのように浮かび、また素早く水面を走り、時に水中に潜り、水底に掴まって』一時間もの間、『潜水を行うものまである。それらは水中の小動物、時に小さな魚を獲物にすることがあり、英名の Fishing spider (魚釣りグモ)はこれによる』とするが、水辺以外に棲息する種も多いことは既に述べた。『中型から大型のクモで、頑丈な歩脚を持つ』。『前中眼が前側眼より大きく、前中眼と後中眼で作られる四角形(中眼域)は縦長。顎の後列の歯が』四本あり、『歩脚はどれもほぼ同じ長さで、第四脚は第一脚より少しだけ長い』。『徘徊性のクモであり、一般には待ち伏せしているところを見ることが多い。ただし一部では幼生が棚網を張ることが知られる。陸上では草の上に出てじっとしている。危険を感じると草間に逃げ込む。樹木の幹に下向きに止まって待機するものもいる』。『水辺のものは水辺の石の上に静止するものもある。そのようなものは、危険が迫ると水面に逃れ、素早く走って、時に水中に逃れる』。『更に、暑い日に体温低下を求めて水中に入る種もある。 水辺に生息するものの場合、水中の獲物を求め、浮き草などの上に身体を固定し、第一脚を水面に触れさせる待機姿勢をとるものがある。これは獲物が水面を揺らす震動を受け止めるためのもので、クモはその獲物を水中から引っ張り上げるようにして捕らえることが出来る。多くの場合、獲物は水生昆虫であるが、オタマジャクシや小型魚類を獲物にすることも知られる』。『なお、このような種はミズグモと間違われる場合がある』。『配偶行動は比較的単純で、キシダグモ科に見られる求愛給餌は行わないようだ。雌は卵嚢を口器につけて持ち運び、この間は雌親は餌を採らない。孵化の直前には網のような構造をつくってそこに卵嚢を下げ、子グモが出てきてその網でまどい』(丸く居並んで集団で生活する空間の謂いかと思われる)『を作り、それから分散するまで雌グモはその傍に待機する』とある(下線やぶちゃん)。]

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