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2015/11/12

橋本多佳子 生前句集及び遺稿句集「命終」未収録作品(28) 昭和二十八(一九五三)年 九十七句

 昭和二十八(一九五三)年

 

虎落笛過ぎし天より鴉下る

 

急流に泳ぎ落ちゆく頭が見えつつ

 

冬の山犬吠え谺にぎはへり

 

秋燈移すその部屋を暗闇にして

 

風邪臥しとみそさざい暮れはやきもの

 

[やぶちゃん注:「みそさざい」スズメ目ミソサザイ科ミソサザイ属ミソサザイ Troglodytes troglodytes 。小林一茶の、

  みそさゞいちつといふても日の暮(くる)る

 のインスパイアである。引用は丸山一彦校注「新訂 一茶俳句集」(一九九〇年岩波文庫刊)本文。同注では文政版では、

 みそさゞいちゝといふても日が暮る

版本題叢では、

 みそさゞいちゝといふても日は暮る

 

であるとする。]

 

露の中いつまでも燃ゆ焰もつれ

 

廃墟の階ひとり毯つく子のものにて

 

水仙の香つよしその部星に寝ず

 

寒月に従ふ燃ゆる火星にて

 

天寒し透ける翡翠を身につけて

 

冬銀河死なばゆくべき道にして

 

桜大枝切りし男の肩に重し

 

飛びつゞける翡翠枯るゝ芦花ばかり

 

冬帽の群にわれ探す瞳と会ふ

 

洗い髪ぬれをり蟇(ひき)に仕へられ

 

折れ曲るたびにせゝらぐ春野の川

 

藤うつりをらむか暗き淵のぞく

 

梅雨の谷戸僅かに見えて海荒れをり

 

入日光身伏せて麦を刈りすゝむ

 

帷子の折目老いの身が清しき

 

車窓涼風母子の髪のなびき同じ

 

白露や身うごきもせぬ蟻地獄

 

地に触れて夕顔ひらく雷のあと

 

熊ン蜂闘ふ宙より地上に落ち

 

沼が澄む足もとまでも星満ちて

 

月光る桶ビシビシ奔る牛乳(ちゝ)享けて

 

[やぶちゃん注:以上、『天狼』掲載分。]

 

鵙啼くやつめたき空気に眼を張つて

 

枯山中午日に犬の毛が灼けて

 

足遣ればいつも冷たき蒲団の隅

 

冬浜が日にぬくむまでの千鳥と吾

 

雪嶺となりたり手のとどくちかさ

 

雪原をかへる奪はず奪はれず

 

息あらく枯野を来しがなほなかば

 

頸うづむ春着の何処もつめたくて

 

吉祥天女暮れませり寒き光に出る

 

仏堂に身が冷えきつて暮光に出る

 

わが飼ひて恋猫かへる雪山より

 

冬銀河見てゐてつひにあたゝかし

 

紙漉女老いてまくろき髪の束

 

桜に一斧一斧わが世見過すまじ

 

崖なめらか春潮騒けのぼりては落つ

 

老雲雀日を逐ひ逐ひて高空に

 

遍路笠海風あふり松風押す

 

嫗濯ぐそこより尚春水が下る

 

一蝶の飛翔万緑に消され消され

 

雨風の日万緑にうちかこまれ

 

麥かつぎ土堤にのぼれば帰路の足

 

農夫婦足もと水漬きどこも梅雨

 

梅雨青葉わかれの刻のあざやかに

 

春の蟬素手にてつかまむとして遁す

 

浮浪児を追ふ噴水の広場より

 

麦の束さやさや乙女速歩なる

 

吉野青し草刈女泳ぐ衣をぬぐ

 

月輪を蝕みゆくやわが地の翳

 

沼の波光に執し月欠けゆく

 

夏書の筆盤若の字劃多きかな

 

[やぶちゃん注:「筆盤若」底本には「盤」の右に『(ママ)』注記がある。「夏書」は「げがき」で夏安居(げあんご)の間に経文を書写すること或はその書写した経文を指すから、ここはその写経した般若心経のことであろうから誤字か誤植である。]

 

夏書の筆穂長夫も長身なりき

 

施餓鬼供御沼の流れの行方なき

 

[やぶちゃん注:川施餓鬼であるが、どこのロケーションかは不詳。彼女の作では大阪の伝法川のそれがあるが、「御沼」という表現が気になって同定し得ない。識者の御教授を乞う。]

 

荒草や炎天の雀群さそひ

 

羽抜鳥地のぬけ羽を嘴(くち)くわへ

 

羽抜鳥羽落しやまず敵の前

 

オリオンが頭向け落ちくる露大地

 

千鳥のむれ散り集(よ)り野分の波の痕(あと)

 

顔知らぬ雀よ鳴るは坂清水

 

稲刈る手許夕焼け月も光り出で

 

ものいへば赤くぬれくる寒き唇(くち)

 

凍壺継ぐ絵の水鳥の頸あはせ

 

毛糸にてみどり子裹(つつ)む手も出さずに

 

[やぶちゃん注:以上、『七曜』掲載分。]

 

樹上のをとめ林檎を呉るゝ隈なき紅

 

露の蝶わすれられゐるやすらかさ

 

旅一と刻こゑあげ墓地に胡桃拾ふ

 

脈うつやふところ手もて乳二つ

 

朝の畳足袋なき足に風当る

 

[やぶちゃん注:以上、『俳句研究』掲載分。]

 

雪野ゆく同じ姿に裾吹かれ

 

乙女長靴深雪に水汲む吾がために

 

雪くぐり漉場くぐりて水去りゆく

 

吾旅人搔く炉ぼこりに馴れきれず

 

雪焼け子よポケットのパン上から押さへ

 

   雪原をゆけば村ありて

 

綿つむぐ嫗ものかむ顎うごかし

 

綿つむぐ嫗耳しひ眼しひ生き

 

白飯綱天にす霞に鶏汚れ

 

白飯綱野馬駆くるところ地傷つき

 

[やぶちゃん注:「白飯綱」長野県長野市の飯縄山(いいづなやま)南麓に広がる飯綱高原のことか。この年の三月、作句に行き詰まって、春雪も深い信州に独り吟行に出かけている。]

 

雪山見る雪の平らにわが立ちて

 

雪解(ゆきげ)の裾乾きては又旅ゆけり

 

雪山雪野五日月なる明るさに

 

バス照らすは谿よりの樹頭まだ芽吹かず

 

氷湖(ひこ)解けし諏訪をうとめば虹立ちたり

 

   公魚の漁初まる

 

春日漁夫真絹の網をひきしぼり

 
[やぶちゃん注:「公魚」老婆心乍ら、「わかさぎ」と読み、条鰭綱キュウリウオ目キュウリウオ科ワカサギ属ワカサギ
Hypomesus nipponensis のこと。]
 
 

   塩尻峠に登れば日本アルプス、

   裏富士、八ヶ岳一望に見ゆ

 

雪凍る嶺に対ふ秒音きざみつつ

 

林中に入り雪嶺見えざる心寒さ

 

[やぶちゃん注:以上、『俳句』掲載分。]

 

枕木に隙く隙く天龍の冬の浪

 

いそぎ来て諏訪湖(すはこ)の凍てに間にあはぎりし

 

指浸し氷(ひ)解くる諏訪の濁りに触る

 

単衣(ひとへ)着て燈ともしてこの寂しさは

 

淵に泳ぎ処女の髪のまだぬれずに

 

ちちろ虫汽車過ぎて後まだ啼かず

 

[やぶちゃん注:「ちちろ虫」老婆心乍ら、蟋蟀(こおろぎ)の別称。]

 

寒き落暉群羊一つだに残らず

 

[やぶちゃん注:以上は『文庫版「海彦」より』とある。多佳子、五十四歳。]

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