日本その日その日 E.S.モース(石川欣一訳) 第二十五章 東京に関する覚書(23) 洗い張り
往来を歩いていると、よく女の人が、家や垣根に寄せかけた細長い板の上に、布を引きのばしているのを見受ける。この板の表面は非常にすべっこい。それは先ず、この目的で売られる、水に濡らすと寒天状の物質を出す、海藻でこする。湿った布をこの板の上に引きのばし、太陽で乾かす。板からはがすと、布は鏝(こて)をかけたように平に、糊をつけたようにピンとしている。我国で湿った手布(ハンカチーフ)を窓硝子(ガラス)に張りつけるのと同じ考である。また柄のついた、底を磨き上げた金属製の皿みたいな物もある。これには炭火を入れ、我々が平鉄を使用するようにして使用する。染め上げた布を乾かすには、両端を突起でとがらせた小さな竹の条片を使用して、二本の棒の間にかけた布を引き離す。単一な布に、これを非常に沢山使用する。
[やぶちゃん注:和服の洗い張りの解説。
「柄のついた、底を磨き上げた金属製の皿みたいな物」とは、和服伸ばしの火熨斗(ひのし)である。これは江戸中期に中国から入ったものであって近代の炭火アイロン(訳文の「平鉄」。原文の“flatiron”)以前からあった。
「両端を突起でとがらせた小さな竹の条片を使用して、二本の棒の間にかけた布を引き離す」これは「伸子(しんし)」或いは「籡(しんし)」(「しいし」とも)と呼ばれる布や反物を洗い張り或いは染織する際に用いる布幅を一定に保つ道具のことを指しているようでる。ウィキの「伸子」にれば、『形状は、両端を尖らせた、あるいは針を植えた細い竹棒(木棒)で』、『左右両端にぴんと張った布を固定、布を縮ませず、幅を保たせるように支える』とある、なお、『「籡」は国字(和製漢字)である』とある。]
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