例えばこんなのがマニアックな僕の注だ……
どんな注をつけてるかって? 梅崎春生の「幻化」の今さっきつけた注を見せようか?
『「君もその鼻髭、剃ったらどうだい。あまり似合わないよ」/「あの日から剃らないんですよ」/左の人差指でチョビ髭をなで、丹尾は沈んだ声で言った。/「髭を立てたんじゃない。その部分だけ剃らなかっただけだ。記念というわけじゃないけどね」』「あの日」は言わずもがな、「一箇月前に」「妻子を交通事故でうしなってしまった」日から、である。丹尾なりの亡き妻子への哀傷の印、彼の聖痕(スティグマ)なのである。無論、こんな分かり切ったことを注しようとしたのではない。何故、梅崎はここで丹尾の自分で「立てた」ように見える「チョビ髭」を嫌ったのかが私には気になるからである。ウィキの「口髭」に以下のようにある。『近代では、口髭は軍人に好まれた。多くの国々において、部隊や階級ごとに様々なスタイルやバリエーションが見られた。一般的に、若い下級の兵士は、比較的小さな、あまり手の込んでいない口髭を立てる。やがて昇進していくと、口髭はより分厚くなり、さらには全てのひげを伸ばすことが許されるようになる』と。五郎は丹尾の髭に戦時中のおぞましい軍人らの髭を思い出したからではなかろうか?
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