「笈の小文」の旅シンクロニティ――ためつけて雪見にまかる紙衣哉 芭蕉
本日 2016年 1月 1日
貞享4年11月28日
はグレゴリオ暦で
1688年 1月 1日
或人の會
ためつけて雪見にまかる紙衣(かみこ)哉
「笈の小文」より。同書ではこの前に前書と「箱根越す人も有るらし今朝の雪」が先行しているが、創作時制上は本句の方が先である。
既に述べた通り、芭蕉は11月25日に名古屋の荷兮亭に入って、ここでまた長逗留しているが、その三日後、のこの日に本句は詠まれた。「如行集」に、
同二十八日名古や昌碧會
とある。山本健吉氏の「芭蕉全発句」によれば、昌碧は『名前からして連歌師で』あり、『名古屋の有力者で、この雪の日、芭蕉のために一席のあるじもうけをしたのであろう』と推測されている。本句も親しき間柄ではない主人に対し、かくも粗末な紙子を、これ、せめても伸ばして御挨拶、という『謙退の心』を含んだ挨拶句である。八吟歌仙が巻かれ、脇は「いてゐる土に拾はれぬ塵 昌碧」である。