梅崎春生 詩 「カラタチ」 (初出形復元版)
カ ラ タ チ
病身ヲ杖ニ托シテヨロメクハ
今日モカラタチノ葉靑ミタル小路デアル
カラタチヲスリ拔ケル風ノ葉ズレハ
白々シキ傷心ノ音譜
空氣ヲチクチクト刺シ通ス鋭ドサニ
靑ミタルカラダチノトゲノユラギツツ
私ノクロズミ枯レタル肋骨ノ
何時カハカク靑ミテ
春風ニ呼吸スル日ヲ思フ
私ハ歩キ出ス
蹌踉トカラタチノ垣根ニ沿ツテ
[やぶちゃん注:昭和八(一九三三)年七月二日第五高等学校龍南会発行『龍南』二二五号に所載された初出形。前掲の詩篇「死床」に続いて掲載されているため、「死床」の署名『文二甲二 梅崎春生』は省略されている。
底本は「熊本大学学術リポジトリ」内で発見した、同初出誌誌面画像「225-003.pdf」を視認して活字に起こした。
老婆心乍ら、「蹌踉」は「さうらう(そうろう)」で、足どりがふらつくさま、よろめくさまの意。
なお、全篇と同じく、本詩篇が掲載された『龍』当該誌の『編輯後記』(「25-017.pdf」)で例の中村なる編集者が『「カラタチ」は割に好い』とのっけに記している(この中村氏は「死床」よりも、この「カラタチ」の方が気に入ったものと読める)。]