山本松谷「鎌倉江島名所圖會」挿絵第六
[やぶちゃん注:明治三〇(一八九七)年八月二十五日発行の雑誌『風俗畫報』臨時増刊「鎌倉江島名所圖會」(第百四十七号)の挿絵六枚目。
右上に小さく「新居子育閻魔堂の圖」(現在の円応寺)
下に強力な「同上閻魔堂十王を集寫するの圖」(「す」は「せ」とも読めそうだが、「す」と判じた)
左常備に横長に鶴岡八幡宮内の頼朝を祀った「鎌倉白旗神社の圖」
と手書き文字でキャプションが記されてある。十王像は「集寫」とあるから、実景ではないわけだが、表情の描出の弱さは問題とせずに見れば、閻魔を敢えて口だけにして隠しているところ(雑誌の記述順からはここに「白旗神社」とくるのは明らかにヘンだが、そんなことを考えさせないほどに閻魔の顔の遮蔽効果の方が抜きん出ていると言える)、にも拘わらず、他の九王と地獄の書記官たる倶生神(くしょうじん)に脱衣婆を漏らしていない点など、ハイカラな帝都東京の連中でも、怖いもの何とかで、この挿絵で「一寸、見に行こう」という気になったに違いないと私は思うのである。絵の上手い下手は問わず、本誌の挿絵中では集客効果抜群の一枚と感じている。私の偏愛するラフカディオ・ハーンの「知られぬ日本の面影」の「第四章 江ノ島巡禮」の「九」や「一〇」のシークエンスの雰囲気は、まさに! こんなイメージなんである(リンク先は私の落合貞三郎訳の電子テクスト注)。ただ……贅沢言わせてもらうなら……慄っとするほど素敵な……あの「人頭杖」だけは是非とも、描き込んで欲しかったなぁ、松谷先生……]
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