飯田蛇笏 山響集 昭和十四(一九三九)年 高原盛夏
[やぶちゃん注:理由は不明であるが、以下はここ以前の昭和一四(一九三九)年冬から同年の夏へと時間が巻き戻っている。確信犯の配置なのではあろう。]
高原盛夏
夏雲群るるこの峽中に死ぬるかな
嶽離る夏雲みれば旅ごころ
草いきれ女童(めろ)會釋してゆきにけり
五月晴えのころ草の穗は曲る
[やぶちゃん注:「えのころ草」単子葉植物綱イネ目イネ科キビ亜科キビ連エノコログサ属エノコログサ(狗尾草)Setaria
viridis であるが、俗称のネコジャラシ(猫じゃらし)の方が通りがよい。]
雨蛙鳴きゐる穗麥さやぎけり
合歡咲けり蜂飄として巣を忘る
雨蛙鳴きゐる穂麦さやぎけり
合歡咲けり蜂飄として巣を忘る
[やぶちゃん注:私の好きな合歓(ねむ)が配されていて、好きな句である。]
老鶯に谷ひえびえとこだましぬ
夏山の蠅懶(ものう)げに鳴きにけり
夏草は闌け高原の道通ず
暑氣せめぐ土むつとして胡麻咲けり
炎天の鬱たる嶺々は巓(さき)隱る
山颪芝草わたる蟻肥えぬ
« 山本松谷「江島・鵠沼・逗子・金澤名所圖會」挿絵 金沢八景名所一覧の鳥瞰図 / 全挿絵公開終了 | トップページ | 甲子夜話卷之一 48 加藤右計柔術仕合の事 »