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2016/02/23

生物學講話 丘淺次郎 第十七章 親子(5) 二 子の保護(Ⅳ)

Sanbagaeru

 

[産婆蛙]

Hukurogaeru

[袋蛙]

Seoigaeru

[背負蛙]

[やぶちゃん注:以上、三図は総て国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像からトリミングし、補正を加えた。]

 

 

 蛙の類には餘程變つた方法で卵を保護するものがある。ドイツ・フランスの南部に普通に居る「産婆蛙」は、大きさは赤蛙位で、姿は「ひき蛙」に似て居るが、産卵するときには、雄は雌を上から抱き、生まれ出る卵を自分の足に卷き附ける。蛙の卵はいつも粘液に混じて生まれ出るもので、「ひき蛙」や「殿樣蛙」では粘液は直に水を吸うて量が增し、柔く透明な寒天樣のものになるが、産婆蛙は陸上で産卵するから、卵は濃い粘液に繫がれて珠數の如き形をなし、雄がこれを足に卷き附ければ、粘液のためにそこに粘著する。かうして、雄は卵を膝や腿の邊に卷き附けたまゝ石の下などに隱れ、卵が發育して「おたまじやくし」になる頃に近邊の池まで行き、水の中へ泳ぎ出させる。普通の蛙に比べると、卵は大きくて數が餘程少い。また南アメリカに産する雨蛙の一種では、雌の背に一つの囊があり、その口は背の後端に近い處で肛門の少しく前に開いて居るが、卵は生まれると直にこの囊に入れられ、發生が餘程進むまでその中で保護せられる。卵は無論粒が大きくて數が少い。また同じく南アメリカに産する雨蛙で、十數個の大卵を單に背面に粘著せしめて、背負うて歩く種類もある。印度洋の南にあるセイシェル島の蛙は、「おたまじやくし」を親が背に載せて歩く。

[やぶちゃん注:「産婆蛙」両生綱平滑両生亜綱無尾(カエル)目スズガエル科サンバガエルAlytes obstetricans 。ヨーロッパ西部、ドイツからポルトガルにかけて分布し、普段は林・石垣・石切場・砂丘などに棲息し、ほぼ陸生志向を持つカエルで、水かきなどはあまり発達していない。皮膚表面に無数の凸凹の疣状突起があり、ヒキガエル類(ヒキガエル科 Bufonidae)に似ているものの、遙かに小型で三~五センチメートルしかない。体色は淡い緑色・灰色・褐色など様々で不規則な暗色模様が全体に見られる。瞳孔が縦長で菱形を呈しており、夜行性の特徴を示す。春から初夏にかけての繁殖期にの腹部を刺激して産卵を促し、は産み出された紐状の淡褐色の卵塊を自分の後肢に巻きつけて凡そ五十日もの間、運んで歩きながら保育する。その後、卵が孵化し始めると、は水辺へと移動、浅い水に幼体を放つ。同サンバガエル属の種は通常、攻撃を受けると皮膚から乳白色の毒を分泌する(但し、マジョルカサンバガエル Alytes muletensis は毒分泌はしないとされる)。

「袋蛙」無尾(カエル)目アマガエル科フクロガエル Gastrotheca marsupiatum 。外観は普通のアマガエル類(アマガエル科アマガエル亜科アマガエル属 Hyla)に似ているが、の背に育児袋があり、産み出された卵はその中に流れ込んで孵化した幼生は変態を終えるまで袋の中で育つ。袋から出る際には母親が後肢の指で袋の口を開口する。

「背負蛙」「南アメリカに産する雨蛙で、十數個の大卵を單に背面に粘著せしめて、背負うて歩く種類」中南米に分布ツノアマガエル亜科 Hemiphractinaeの仲間か? 同科の特徴はが背中部で幼生又は子蛙に変態するまで育てることであるが、但し、これらは現行の専門家の解説によれば「保育囊」とある。しかしそれらの画像を見ると卵(かなり大きい)の場合は一見、背部に粘着しているようにしか見えない。一応、同科の属を以下に示す。

 フクロアマガエル属 Gastrotheca

 ツノアマガエル属 Hemiphractus

 ヒダアマガエル属 Fritziana

 クリプトバトラクス属 Cryptobatrachus

 コモリアマガエル属 Flectonotus

 ステファニア属 Stefania

『印度洋の南にあるセイシェル島の蛙は、「おたまじやくし」を親が背に載せて歩く』セーシェルガエル科セーシェルガエル(コオイセーシェルガエル)Sooglossus sechellensis 。サイト「カエル動画図鑑」のセーシェルガエルによれば、は十五ミリメートル、は二センチメートル。『背中は金色がかった褐色であり、脇腹と手足には黒色の斑点がある』。本種は『セーシェル諸島のマヘ島とシルエット島の海抜』二百メートル以上の高地地域に棲息し、『熱帯雨林の林床の落ち葉の中を、主な生活場所にしている。普段は隠れていることが多く、あまり人に発見されることはない』。『雨季になると、繁殖が行なわれる。オスは昼夜問わず、メスをひきつけるために鳴き声をあげる。メスは』僅かに十個ほどを産卵、は『卵が孵化するまで面倒を見る。卵が孵化すると』、は『オタマジャクシが変態して小ガエルになるまで、オタマジャクシを自分の背中に載せる。オタマジャクシが水の中で暮らすことはない』とある。]

 

Seanagaeru

[背孔蛙]

Dawinhanagaeru

[卵を吞む蛙]

[やぶちゃん注:以上、二図はともに国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像からトリミングし、補正を加えた。]

 

 

 南アメリカの北部の熱帶地方に産する「背孔蛙」と稱する一種は他に類のない方法で卵を保護する。「ひきがへる」程の大きさの妙な蛙であるが、雌が粘液に混じて數十個の卵を産み出すと、雄はこれを雌の背の上に塗り附けてやる。日數が經つと雌の背中の皮膚が柔く厚くなり、卵は一粒づつその孔の中に嵌り包まれ、かうして保護せられるのみならず、「おたまじやくし」時代をも通り越して、四本の足を具ヘた小さな蛙の形まで發育する。幼兒は初は親の背中の皮膚の孔から顏だけを出して居るが、後には恰も「カンガルー」の幼兒などの如くに、自由に匍ひ出したり、また舊の孔に入つたりする。しかしこれは極めて、短い間であつて、四足が自由に動くやうになれば親から離れて獨立の生活を始める。子が母親の背中の表面から産まれるといふのも珍しいが、同じ南アメリカのチリ邊に産する一種の小さな雨蛙は、更に意外な方法で卵を保護する。この蛙は、雌が大きな卵を一粒づつ産むと、雄は直に呑み込んでしまふ。但し卵は無論食道を通過し胃に入つて消化せられるのではなく咽喉から別の道を通つて別の囊に入り、その中で小さな蛙の形まで發育し、終に父親の口から産み出される。それ故一時はこのの蛙は胎生と思はれて居たが、腹に子を持つて居るものを解剖して見ると、いづれも睾丸を具へた雄ばかりであるから、なほよくよく調べて見たら、子供の人つて居る囊は、普通の雨蛙が鳴くとき聲を響かせるために膨らせる咽喉の囊に相當することが明に知れた。普通の雨蛙の鳴く所を横から見ると、聲を發する毎に咽喉の皮が大きく球形に膨れるが、チリの小さな雨蛙では、この囊が更に大きくなり、内臟のある場處と皮膚との間に割り込んで、腹の方まで達して居るのである。

[やぶちゃん注:以上の他にも変わった保育を行う蛙について、「るいネット」の雪竹恭一氏のカエルの繁殖様式いろいろが参考になる。以上の蛙も挙がっており、リンクもされていて必見。

「背孔蛙」無尾目無舌亜目ピパ科ピパ属コモリガエル(ピパピパ)Pipa pipa ウィキの「ピパピパによれば(「メス」「オス」を記号に代えた)、体長は十五センチメートルほどもある『大型のカエルだが、前方に三角形にとがった頭部と、上から押しつぶされたような扁平な体はカエルとは思えないほどである』(不謹慎ながら、小さな頃によく見た車に轢かれて熨斗烏賊になった大型の蛙に似ていると私は昔からずっと思っている)。『体色は褐色で全身にいぼのような小さな突起がある。後脚には広い水かきが発達する。前脚には水かきがないが、指先に小さな星形の器官がある。目は小さくてほとんど目立たないが、口は大きい。また、舌がないのもピパ科のカエルの特徴であり、同じ科のツメガエル類とも共通した特徴である』。『アマゾン川流域を中心とした南米北部の熱帯域に分布し、川の中に生息』し、『陸上に出ることはほとんどなく、一生を水中で過ごす』。『前脚を前方に突き出し、「バンザイ」をしたような格好で川底にひそむ。褐色の扁平な体は枯れ葉や岩石によく似ており、捕食者や獲物の目をあざむく擬態である』。『前脚の指先にある星型の器官は節足動物の触角のような役割を果たしており、小魚や水生昆虫が前脚に触れると、瞬時に大きな口で捕食する。このとき、口を開けて水とともに獲物を吸い込みつつ、前脚で口の中に掻き込むような動作を行う。移動する時は後脚の水かきを活かして移動し、前脚で障害物を掻き分けながら進む』。『その変わった姿だけでなく、が子どもを保育することでも知られ』、『産卵前にはの背中の皮膚がスポンジのようにやわらかく肥厚する。は水中で抱接しながら後方に何度も宙返りし、背泳ぎの状態になったときに産卵した卵をの腹部で受け止めて受精させ、回転が終了したときに受精卵をの背中の肥厚した皮膚組織に押し付け、埋めこんでしまう。卵は組織内で孵化し、幼生(オタマジャクシ)の時期もの背中の組織内ですごす。メスの背中から飛び出してくる頃には小さなカエルの姿になっている。「コモリガエル」という和名はこの繁殖行動からつけられたものである』。『同じピパ属のカエルの中には背中の皮膚内で孵化した幼生がカエルまで成長せず、オタマジャクシの状態で泳ぎだす種も知られている』。

「卵を吞む蛙」無尾目ダーウィンガエル科ハナガエル属ダーウィンハナガエル Rhinoderma darwinii ウィキの「ダーウィンハナガエルによれば(「メス」「オス」を記号に代えた)、『チリやアルゼンチンの森林の小川に生息するダーウィンガエル科のカエルである。フランスの動物学者アンドレ・デュメリルとその助手ガブリエル・ビブロンによって記載された。種小名darwiniiはビーグル号による航海の際に、チリでこの種を発見したチャールズ・ダーウィンに因む』。『最大の特徴は、オタマジャクシがオスの鳴嚢の中で成長する点である』。『色は茶色か緑色で、大きさは』二・五~三・五センチメートル。『前足には水かきがないが、後ろ足の爪先のいくつかには水かきがある。昆虫やその他の節足動物を食べる』。彼らは『エサを捕まえるだけではなく、捕食者から身を隠す必要もある。捕食者から逃れる最大の武器はカムフラージュである。まるで枯葉のように地面に横たわって、捕食者が通り過ぎるのを待つ』。以下、「口内保育」の項。は約三十個の『卵を産み、は卵が孵化するまで、おおよそ』二週間、『それを守る。その後、は鳴嚢の中で生き残った全ての子供を育てる。オタマジャクシは卵黄を食べながら』、『袋状の顎の皮膚の中で成長する。オタマジャクシが』〇・五インチ(一・二七センチメートル)程度まで『成長すると、口の中から飛び出て泳ぎ去る』とある。但し、悲しいことに、二〇一三年十一月に『ロンドン動物学会とチリのアンドレス・ベロ国立大学の研究者は、カエルツボカビ症』(一属一種の真菌である菌界ツボカビ門ツボカビ綱ツボカビ目ツボカビ科ツボカビカエルツボカビ Batrachochytrium dendrobatidis によって引き起こされる両生類の致死的感染症)『によってこの種は既に絶滅しているようだと発表した』とある。

「嵌り」「はまり」と読む。]

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