「笈の小文」の旅シンクロニティ―― あこくその心もしらず梅の花 芭蕉
本日 2016年 2月10日
貞享5年 1月 9日
はグレゴリオ暦で
1688年 2月10日
あこくその心もしらず梅の花
前句と同じく小川風麦亭での同日の一句。「笈の小文」には不載。「三冊子」などに、
あこくその心は知らず梅の花
とするものがある。
「あこくそ」は「阿古久曾」でかの歌人紀貫之の童名と伝えられるものである。そこから、知られた貫之の、
人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける
を引き出し、さらに芭蕉の意識は自身の幼年時代まで遡って、変わらぬ「ふるさと」伊賀上野のこの風麦の屋敷内の梅、そして風狂の漂泊者となった私を、貫之の歌とは正反対に(その雰囲気は異型の「心は知らず」の方が私はよく響き出ると思う)、あの頃と変わらずに優しい笑顔で迎え入れて呉れるその旧友の主人の優しさ、そこにこの挨拶の句の誠意と感謝がある。
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