ツルゲーネフ原作米川正夫譯「生きた御遺骸」(「獵人日記」より)(最終章)
幾週間か經つて、私はルケリヤが死んだといふことを聞いた。やつぱり死神が迎へに來た‥‥しかも「ペトロフキが濟んでから」やつて來たのだ。人の話によると、亡くなる當日、彼女の耳には絶えず鐘の音が聞こえてゐたとのことである。そのくせアレクセーエフカから教會までは五露里の餘もあつて、おまけに、その日は日曜でも祭日でもなかつたのである。尤も、ルケリヤはその音が教會からではなく、「上の方から」響いて來ると云つゐたさうだ。多分、「天から」と云ふのを憚つたのであらう。
*
僕の母聖子テレジアは2011年3月19日朝、この5時21分、筋萎縮性側索硬化症(ALS)による急性期呼吸不全により天に召された――
« ツルゲーネフ原作米川正夫譯「生きた御遺骸」(「獵人日記」より)(ⅩⅣ) | トップページ | ツルゲーネフ原作米川正夫譯「生きた御遺骸」(「獵人日記」より) (全) »