フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 20250201_082049
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

無料ブログはココログ

« 進化論講話 丘淺次郎 藪野直史附注 第三章 人の飼養する動植物の變異(2) 一 犬の變種 | トップページ | 絶體ゼツ命 DADADA ダダイ   原民喜 »

2016/03/18

進化論講話 丘淺次郎 藪野直史附注 第三章 人の飼養する動植物の變異(3) 二 鳩の變種

     二 鳩の變種

Dennsyobato

[傳書鳩]

[やぶちゃん注:本図は底本の国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像からトリミングし、補正を加えたものである。]

 

 鳩も從來我が國で飼つて居たのは僅に一種類だけで、幾つ見てもただ羽毛の色が白いとか黑いとか小豆色の斑があるとか硯石のやうな模樣があるとかいふ位の相違があるだけで、身體の形狀、諸部の割合などは、全く同じであるが、イギリス邊で人の飼つて居るものを見ると、實に千態萬狀で、その間の相違の甚しいことは、實物を見ぬ人には到底想像も出來ぬ程である。

 例へばパウターといふ種類では身體も翼も足も比較的に長く、體を常に稍々直立の位置に置いて、餌囊に空氣を嚥(の)み込み、胸を球の如くに脹らせる性質を持つて居る。一體鳩は普通のものでも鳩胸といふて胸の處を突き出して居るものであるが、この種類ではその上に餌囊が非常に大きく發達して居て、空氣を吸ひ込んで恰も玩具の風船球の如くに圓くするから、嘴も殆ど見えぬ位である。またファンテイルいふ種類は、尾の羽毛を立て、扇の如くに之を擴げて歩く。通常日本の飼鳩などでは、尾の羽毛の數は漸く十二本位であるが、この種類では尾の羽毛が三十五六本から四十本位もある。之を孔雀の尾の如く立てて開き、頸を後へ引込めて歩くから、頭の後部が尾の羽毛に觸れて居るのが常である。總べてかやうな種類はたゞ人が慰だけに飼ふもので、その特徴とする點が發達して居る程人に珍重せられ、前のパウターならば胸が大きく脹れて居るほど上等で、ファンテイルは尾が大きく擴がつて居る程價が高い。それ故鳩の共進會で一等賞でも取るやうなものは、我々から見ると殆ど畸形かと思はれるやうな形狀を呈して居る。またキャリヤーといふ種類は嘴が長くて眼の周圍には羽毛がなく、皮膚が蛇の目形に裸出して恰も大きな服鏡を掛けて居るやうに見え、タンブラーといふ種類では頭は圓く、嘴は短くて殆ど雀の嘴の如くである。その他ラント種の如きは體は短く尾は直立して、鳩らしい處は殆ど少しも無い。以上は鵠の形の種々ある中で最も異なつた例を四つだけ擧げたのに過ぎぬが、鳩には形狀ばかりでなく習性にも著しく相違したものがある。傳書鳩といふ種類は如何なる遠方の土地に連れて行つても、之を空中に放せば忽ち一直線に出發地に歸る性質を持つて居る。それ故この鳩は、無線電信の發明せられる前には、諸國の陸軍で戰爭の際寵城でもした時の通信の道具として飼ひ馴らして居たが、斯かる性質の鳩があると思ふと、また一方には籠から飛び出せば必ず直に角兵衞獅子のやうに背の方へ廻轉する性質を有するものがあるが、之は前に名を擧げたタンブラー即ち譯すれば「轉倒者」といふ種類で、飛び出せば是非とも廻轉せずには居られぬ具合は、恰も我が國の「こま鼠」と同樣で、一は縱に廻轉し一は水平に廻轉するの違はあるが、兩方とも殆ど病的といつて宜しい程である。この種類の鳩は飛翔中に廻轉する度數の多い程上等としてあるから、人に譽められるやうな鳩は飛び出すや否や直にくるくる廻つて、前へ進んで行くことは出來ない。廻轉の度數の多いものでは一分間に四十囘も四十五囘も廻るさうである。また鳴聲も鳩の種類によつて大に異なつて、中にも喇叭鳩・笑ひ鳩などといふ名前の附いて居る種類は、實際その名前の通り、一は恰も喇叭の如き聲、一は丸で人の笑ひ聲の如き鳴聲を發する。尚こゝに述べた外に、鳩の變種は極めて澤山あつて到底枚擧し靈すことは出來ぬ。ダーウィンは自身も二三の養鳩協會に加入して、實際鳩を飼養し、飼鳩の形狀の異なつたものを出來るだけ皆集めて之を調査し、百五十餘通りもあることを發見し、之を大別して十一組に分類したが、之を見てもヨーロッパの飼鳩の變種の極めて多いことが解る。

[やぶちゃん注:巻頭にあった挿絵は本パートに関するものである。煩を厭わず、再度、図とキャプション及び私の注を再掲(一部に追記してある)する(そうすると本文の注を大幅に削ることが出来るからである。

   *

Hatonohensyu

[鳩の變種

1 かはらばと  2 キャリヤー

3 つかひばと  4 パウター

5 ファンティル 

6 タンブラー  7 さかげ

8 モルタ    9 えりまき]

[やぶちゃん注:以上の図は底本の国立国会図書館国立国会図書館デジタルコレクションの画像からトリミングし、補正を加えたものである。

「かはらばと」動物界脊索動物門脊椎動物亜門鳥綱ハト目ハト科カワラバト属カワラバト Columba livia は我々が普段、普通に「ハト」と呼んでいる基本種。ドバト。以下の変種は概ね、本種を人間が飼育調教などをして品種改良したものであるが、本種自体も学術的には本邦の在来種ではない。

「キャリヤー」イングリッシュ・キャリア(English carrier:イギリス伝書鳩)などの類か。こちらのshow taimu氏のブログの「イングリッシュキャリア」に『特に羽色が黒だとカラスに近い体型』とあるのと絵が一致するように思われる(リンク先には写真有り)。

「つかひばと」伝書鳩。

「パウター」図から見て、これは「ポーター」(Pouter)のことである。ウィキの「ポーター」によれば、家畜化されたカワラバトで、『大きなサイズと長い足、空気で膨らんだ素嚢が特徴である』。『その特異な外見から、主に観賞用として育成される。育成の発祥は分かっていないが、ヨーロッパでは少なくとも』四百年以上は『育成されている』とある。

「ファンティル」「ファンテイル」=「fantail」で、幅広の扇(ファン)形をした尾を持つ孔雀鳩(くじゃくばと)のこと。

「タンブラー」(tumbler:トンボ返りする曲芸師の意)鳩飼育のサイトを見る限り、宙返りするように調教飼育して生まれた品種か。

「さかげ」逆毛。

「モルタ」不詳。ただ、体型から見て、これはどうも食用に「改良」された種なのではないかと私には見受けられる。識者の御教授を乞う。

「えりまき」襟巻。ジャコビン(jacobin)と呼ばれる品種か。ここまでくると実にヒトという種の変態性がよく判る。]

   *

 以下、本条の注。

「鳩も從來我が國で飼つて居たのは僅に一種類だけ」これも気になる叙述である。狭義のハト目ハト科 Columbidae に限って見ても、この本書の執筆当時ならば、普通に、

カワラバト属カワラバト Columba livia

キジバト属キジバト Streptopelia orientalis

の全く異なる二種を見かけたはずである(現在も同じ)。野鳥の飼育は原則禁じられている(許可申請をすれば可)としても、この丘先生の言い方はやや乱暴な気がする。さらに言うなら、ウィキの「によると、ハト科の『日本の在来種は、カラスバト属(カラスバト、アカガシラカラスバト、ヨナクニカラスバト、リュウキュウカラスバト、オガサワラカラスバト)、キジバト属(キジバト、リュウキュウキジバト、シラコバト)、ベニバト属(ベニバト)、キンバト属(リュウキュウキンバト)、アオバト属(アオバト、リュウキュウズアカアオバト、チュウダイズアカアオバト)の』五属十三種が挙げられるとし、『このうち、リュウキュウカラスバトとオガサワラカラスバトの』二種は、『絶滅したと考えられていたが、近年、DNA調査により亜種がいくつかの諸島部で生存していることが確認された』とあるから、失礼乍ら、ますますおかしいと言える。これらは物理的(法的ではない)には恐らく多くは飼育可能なはずだからである。

「餌囊」「えさぶくろ」「えぶくろ」か「じなう(じのう)」か。ともかくも、素嚢(嗉嚢:そのう)のことである。消化管の一部分で、膨らんだ形状をしており、また管壁が厚くなっており、消化に先立って食べたものを一時的に貯蔵しておくための器官。参照したウィキの「素嚢によれば、鳥類では、『消化管の食道あるいはのどの近くで、管壁が筋肉質になり、膨らんだ形状になっている部分(嚢)がある。そこに食べたものを一時的に蓄えておくことができる。鳥類のすべてが砂嚢を持つ一方で、素嚢についてはこれを持たない種もある』とし、『ハト目では、素嚢で素嚢乳が作られる。これは孵化したばかりの雛に与えられ』、また、『食べたエサをしばらく素嚢に保持することで、水分により食べたものを柔らかくし、それを吐き戻しによって雛に与える』。『ハゲワシなどの死肉を食べる種では、エサが大量にあるときでもできるだけ多く食べるため、その結果』、『素嚢が大きく膨らむ。その後睡眠する、あるいはじっと動かずにいることで、消化を妨げないようにする』。『猛禽類では、ハゲワシを含めてワシ、タカなどには素嚢を一つ持つが、フクロウは素嚢を持たない』。『家禽では、ニワトリにはあるが、ガチョウにはない』とある。

「ラント種」(Runt)は食用改良品種の一つ。中でも「ジャイアント・ラント種」と呼ばれるものはハトの中で最大の大きさを誇ると言われる。

「角兵衞獅子」「かくべゑじし(かくべえじし)」と読む。現在の新潟県新潟市南区(旧西蒲原(にしかんばら)郡月潟村)を発祥とする郷土芸能で、「越後獅子」「蒲原獅子」とも呼ばれる。児童を中心として大人の親方が演じさせた獅子舞の大道芸。舞い子は七歳以上十四~五歳以下の児童が縞模様のモンペと錏(しころ:兜(かぶと)の鉢の左右から後方に垂れて頸を覆うもの)の付いた小さい獅子頭を頭上に頂いた格好で演じ、獅子頭の毛には鶏の羽根が用いられ、錏には紅染の絹の中央に黒繻子があしらわれていた。笛・太鼓に合わせて、ここで比喩となっている宙返りや逆立ちといった曲芸だけでなく、相応の筋を持った数々の曲を演じさせたという。参照したウィキの「角兵衛獅子によれば、『越後獅子が江戸に来たのは』宝暦五(一七五五)年の『ことで、諸侯へ召し出されて獅子冠を演じた親方が角兵衛であったから角兵衛の獅子、角兵衛獅子となったともいう。信濃川中流部の中之口川沿岸の農民角兵衛が毎年の凶作や飢饉から村人を救うため、獅子舞を創案した』とも言われるが、江戸末期の風俗百科事典とも言うべき考証随筆である、喜多村信節(のぶよ)の「嬉遊笑覧」(天保元(一八三〇)年刊)には、『「越後獅子を江戸にては角兵衛獅子といふ。越後にては蒲原郡より出づるに依りカンバラ獅子といふとぞ、角兵衛獅子は、恐らくは蒲原獅子の誤りならむ」とある』。『大道芸としては明治時代に衰退してゆ』き、『更に義務教育の定着などの社会の意識の変化により、児童に対して親方と呼ばれる大人が鞭を用いた体罰で芸を仕込むことや学校にも通わせないことに対する嫌悪感が生まれ、次第に忌避の対象となっていった。明治中期の東京では、小石川柳町が角兵衛獅子の棲家で』、二~三人の親方が貧しい家の子を四~五歳のうちに四~五円で『買い取り、体を柔らかくするために酢を飲ませたり、棍棒や分銅を使って稽古をさせるなどしており、その扱いが残酷であるとして警視庁から新たな子供を加えてはいけないという禁止令が出され、次第に数が減』り、昭和八(一九三三)年の『「児童虐待防止法」によって、児童を使った金銭目的の大道芸そのものが禁止となり、『大道芸』という形態としては姿を消すこととなった』とある。

「こま鼠」中国産のハツカネズミ(齧歯目ネズミ上科ネズミ科ハツカネズミ属ハツカネズミ Mus musculus)の飼養変種である。体色は白く、内耳の三半規管に異常があるために平衡がとれず、自分の尾を追うように、くるくると回る習性がある。「舞鼠(まいねずみ)」とも言う。

「喇叭鳩」「らつぱばと(らっぱばと)」で、英語の「トランペッター」(trumpeter)と称する品種の訳語。

「笑ひ鳩」英語の「ラッファー」(laugher)。同前。

「ダーウィンは自身も二三の養鳩協會に加入して、實際鳩を飼養し、飼鳩の形狀の異なつたものを出來るだけ皆集めて之を調査し、百五十餘通りもあることを發見し、之を大別して十一組に分類した」北村雄一氏のサイト内の『「種の起源」を読む』の第1章:飼育栽培のもとでの変異に詳しい。それによれば(私の持つ訳本(岩波文庫版八杉龍一訳)を見ると箇条表記ではないことが判り、十一種別が読み取り難いので)、English carrier(特にに『発達した頭部の肉ダレ、巨大な外鼻孔』がある)・short-faced tumbler(『異常なフィンチのような』嘴を有する)・commom tumblerruntbarb(『バーブ:伝書鳩に似るが短くて幅が広い』嘴を持つ)・pouterturbit(『タービット:短く円錐形のくちばし、胸のさかだった羽毛』・jacobintrumpeterlaugherfantail で、丘先生は概ねこれらに基づいて例示しておられることが判る。]

« 進化論講話 丘淺次郎 藪野直史附注 第三章 人の飼養する動植物の變異(2) 一 犬の變種 | トップページ | 絶體ゼツ命 DADADA ダダイ   原民喜 »