「笈の小文」の旅シンクロニティ―― 物の名を先とふ荻の若葉かな 芭蕉
本日 2016年 3月16日
貞享5年 2月15日
はグレゴリオ暦で
1688年 3月16日
龍尚舍(りゆうしようしや)
物の名を先(まづ)と荻(をぎ)の若葉かな
「笈の小文」。底本としている昭和三(一九二八)年日本古典全集刊行会刊正宗敦夫編纂・校訂「芭蕉全集 前篇」にはこの句形で載る。しかし、私の所持する諸本の「笈の小文」では皆、
物の名を先とふ芦(あし)の若葉哉
の句形で載り(諸本は「蘆」ではない)、「荻」は「笈日記」の句形とする。
「龍尚舍」は伊勢神宮神官龍野(たつの)伝右衛門煕近(ひろちか)の号。『博学の倭学者』(山本健吉「芭蕉全句」)で、当時、『著名の神道学者。俳諧も嗜んだ』(新潮日本古典集成「芭蕉句集」の今栄蔵氏の注)。山本氏によれば、これは二条良基・救済(ぐさい)共撰の「菟玖波(つくば)集」に載る、
草の名も所によりてかはるなり難波(なには)の蘆(あし)は伊勢の濱荻(はまをぎ)
を踏まえての、博覧強記の主人への挨拶としたもの。訪れる前に見た実景に基づくとするならば、季詞としては「荻の若葉」の方が当季でよいし、元歌からも私は「荻」が好いと思うのだが?