偶作 原民喜
偶 作 原 民喜
旅に來て
日輪の赤らむのを見た
朝は田家の霜に明けそめて
磯松原が澄んで居る
一色につづく海が寒さうだ
冬 日
ここのこの橡(とち)の樹は
身の丈ほどの高さである
太い樹の机の
節々の圓い芽がついて居る
私のせには冬の日が
かんかんと照りつける
春 雨
雨は宵に入つてから
一層靜かであつた
床についてからは
降るさまがよく描かれた
[やぶちゃん注:以上は、原民喜が大正一五(一九二六)年一月から五月まで発刊した詩の同人雑誌『春鶯囀』三号に載る(四号で廃刊するが、二号と三号の発刊月のクレジットは不詳である)。
底本は一九七八年青土社刊「定本 原民喜全集 Ⅱ」を用いたが、戦前の作品なので恣意的に正字化した。活字のポイント差はママ。やはり前号などと同じく、総標題が「偶作」で、それが無題の序詞と小題「冬日」及び「春雨」の三連構成になっている一篇である。]

