落日 原民喜
落日
湖のうへに、赤い秋の落日があつた。ほんとに、なごやかな一日であつたし、あんな、たつぷりした入日を見たことはないと、お前も云つた。いつまでも、あの日輪のすがたは残つた、紙の上に、心の上に、そして、お前が死んでからは、はつきりと夢の中に。
[やぶちゃん注:私が私の「原民喜全詩集」 で底本とした一九七八年青土社刊「原民喜全集 Ⅱ」の書誌によれば、昭和二三(一九四八)年七月号『高原』に初出。「お前」とは言わずもがな乍ら、民喜の妻芳恵(明治四四(一九一一)年~昭和一九(一九四四)年:民喜より六つ年下)。被爆・敗戦の前年、昭和十九年(一九四四)年九月に肺結核と糖尿病のために逝去していた。]

