和漢三才圖會卷第五十二 蟲部 蝶
蝶【音】 ※1蝶
テツ
[やぶちゃん字注:「※1」=「虫」+「奄」。]
本綱蝶蛾類也大曰蝶小曰䖸其種甚繁皆四翅有粉好
嗅花香以鬚代鼻其交以鼻交則粉退。諸書所謂【烏足之葉化蝶
橘蠹化蝶菜蟲化蝶百合花化蝶蔬菜化蝶樹葉化蝶或綵裙化蝶】化蝶者甚多各據其所
見者而言爾蓋不知蠹蠋諸蟲至老俱各蛻而爲蝶爲蛾
如蠺之必羽化也朽衣物亦必生蟲而化草木葉之化者
乃氣化風化也其色亦各隨其蟲所食花葉及所化之物
色而然
三才圖會云菜中青蟲當春時緣行屋壁或草木上以絲
自固一夕視之有圭角六七日其背罅裂蛻爲蝶出矣其
大蝶散卵於柑橘上爲蟲青緑既久則去爲大蝶
はかなくもまねく尾花にたはむれて暮行秋をしらぬてふ哉仲正
△按蝶有數種大一寸許白色者多戲箐菜花有黄蝶有
黃褐色者有紺蝶【一名紺幡又名童幡】有緑蝶【一名緑女又名姥蝶】
*
てふ 蛺蝶〔(たてはてふ)〕 蝴蝶〔(こてふ)〕
蝶【音、 。】 ※1蝶〔(おうてふ)〕
テツ
[やぶちゃん字注:「※1」=「虫」+「奄」。]
「本綱」、蝶は蛾の類なり。大なるを蝶と曰ひ、小なるを䖸と曰ふ。其の種、甚だ繁〔(おほ)〕し。皆、四つの翅ありて、粉、有り。好みて花の香を嗅ぐ。鬚を以て鼻に代〔(か)〕ふ。其の交はりには鼻を以てす。交はる時は、則ち、粉、退く。諸書、所謂【烏足の葉、蝶に化す。橘の蠹〔(きくひむし)〕、蝶に化す。菜の蟲、蝶に化す。百合花、蝶に化す。蔬菜、蝶に化す。樹の葉、蝶に化す。或いは綵裙〔(さいくん)〕、蝶に化す〔(と)〕。】、蝶に化する者、甚だ多し。各々、其の所の見る者に據りて、言ふのみ。蓋し、知らず、蠹〔(きくひむし)〕・蠋〔(けむし)〕・諸蟲、老〔(ろう)〕に至りて俱に各々、蛻〔(もぬ)け〕て、蝶と爲り、蛾と爲る、蠺の、之れ、必ず羽化するがごとくなる〔(を)〕。朽ちたる衣物も亦、必ず、蟲を生じて化す。草木の葉の化する者は、乃〔(すなは)〕ち、氣化・風化なり。其の色も亦、各々、其の蟲の食ふ所の花・葉及び化する所の物の色に隨ひて、然り。
「三才圖會」に云はく、菜の中の青蟲、春の時に當りて、屋壁或いは草木の上を緣行(はひある)き、絲を以て自ら固〔(かた)まり〕、一夕、之れを視れば、圭角、有り。六、七日して其の背、罅裂〔(ひびわれさ)け〕、蛻〔(もぬ)け〕て蝶と爲りて出づる。其の大蝶、卵を柑(かうじ)・橘(たちばな)の上に散〔じて〕、蟲と爲り、青緑、既に久しき時は、則ち、去りて大蝶と爲る。
はかなくもまねく尾花にたはむれて暮れ行く秋をしらぬてふ哉 仲正
△按ずるに、蝶に數種、有り。大いさ、一寸許り、白色なる者、多く、菁菜〔(なたね)〕の花に戲る。黄蝶、有り、黃褐色の者、有り、紺蝶、有り【一名、紺幡〔(こんばん)〕。又の名、童幡〔(どうばん)〕。】、緑蝶、有り【一名、緑女。又の名、姥蝶〔(うばてふ)〕。】。
[やぶちゃん注:総論的な蝶の記載。昆虫綱鱗翅目 Glossata 亜目
Heteroneura下目に属するものの内で、チョウ(蝶)Rhopalocera
というグループ(系統分類学上の階層タクソンの一つではないので注意)に属する種群、具体的には、
鱗翅目 Lepidoptera に属する全二十一上科の中で、
シャクガモドキ上科 Hedyloidea(シャクガモドキ科 Hedylidae。一上科一科。中南米産で本邦には棲息しない)
セセリチョウ上科Hesperioidea(セセリチョウ科 Hesperiidae。一上科一科)
アゲハチョウ上科Papilionoidea
の三上科の種群が、Rhopalocera にグループされるところの、幾つかの特徴を共有するものとして一応、「蝶」とされているのである。ウィキの「チョウ」によれば(下線やぶちゃん)、『その他のチョウ目の種はガ(蛾)と呼ばれるが、チョウはチョウ目』(鱗翅目)『の系統の中でかなり深いところにある派生的な系統で、それに対し』、『ガは「チョウでない」としか定義できない側系統であり、チョウ目をチョウとガに分けるのは自然な分類ではない』。『しかし、一般には完全に区別して扱われ、昆虫採集においてもっとも愛されてきた昆虫である』とする。但し、より詳しい、今一つのウィキの「チョウ目」の「チョウとガの区別」によれば(下線やぶちゃん)、『チョウとガは同じチョウ目に属して』おり、『その境界は曖昧で、形態で分類するには例外が多すぎて、明確に区別することは難しい。その理由として、チョウ目に存在する多数の系統的分枝のうちわずか』三上科を擁する一分枝を『もって「チョウ」とし、その他大勢をもって「ガ」とする二大別法に系統分類学的根拠が乏しいことが挙げられる。すなわち、「チョウ」の属する分枝を特徴づける形質を列挙することはできるが、「ガ」を特徴づける形質を想定すること自体困難なのである。例えば、「チョウ」の大半は昼行性であるが』、『「ガ」には昼行性のものと夜行性のものの両方が含まれる。また、「チョウ」は休息時に翅を垂直に立てるか水平に開いて止まるかのいずれかであるが、「ガ」には垂直に立てるもの、水平に開くもの、屋根型に畳むものなど様々な休息形態をとるものが存在する。要するに「チョウ」の特徴をある程度定義することはできるが、「ガ」の特徴は「チョウ」の系統を定義する特徴を用いて、消去法で表現することしかできない。系統分類学的に言えば、チョウはガの一部なのである』。『見た目が「チョウ」であるのに「ガ」の属す科や属に属しているというアゲハモドキのような例もある』(鱗翅目カギバガ上科アゲハモドキガ科アゲハモドキ属アゲハモドキ Epicopeia hainesii。本種は本邦に産する)。『日本語では「チョウ」と「ガ」をはっきり区別しているが、ドイツ語圏やフランス語圏など、この』二者を『区別しない言語・文化もある。元来、漢語の「蝶」とは「木の葉のようにひらひら舞う虫」を意味し、「蛾」とはカイコの成虫およびそれに類似した虫を意味する言葉であった。そのため、この漢語概念を取り入れた日本語において、そもそも「チョウ」と「ガ」は対立概念ではなかったのである。当然、今日「チョウ」と呼ぶ昆虫を「ガ」と認識することもあったし、逆もまた真である。さらに、。「蛾」という語が産業昆虫として重要であり、しばしば民俗的に神聖視されるカイコの成虫がイメージの根底にあることからわかるように、今日のように不快昆虫というイメージもなかった。漢字文化圏で美人の眉のことを「カイコガの触角のような眉」を示す「蛾眉」なる語で示すことにそうした文化的背景がよく表されている』。『むしろ日本における今日的な「チョウ」と「ガ」の線引きの起源をたどってみると、英語における
"butterfly" と
"moth" の線引きと一致し、英語圏からの近代博物学の導入に伴って英語の文化的分類様式が科学的分類法と混在して日本語に持ち込まれたことが推測される』。しかし、『英語と同じゲルマン語派のドイツ語におけるチョウ目の文化的分類様式を英語と比較してみると、日本語で「チョウ」と訳される
"Schmetterling" はチョウ目の大型群、すなわち「チョウ」および大蛾類を併せた概念であり、英語の
"moth" に対応する
"Motte" はチョウ目の小型群、すなわち小蛾類を指す概念で、英語および近現代日本語における線引きと明瞭に異なっている』。『よく日本の中学生用の国語の教科書に掲載されているヘルマン・ヘッセの短編小説、『少年の日の思い出』で、主人公が友人の展翅板から盗み出すヤママユ』(ヤママユガ科ヤママユガ亜科ヤママユ属ヤママユ
Antheraea yamamai。既注)『が、原文が Schmetterling であるために「蝶」と訳されていることに違和感を覚えた読者も多いであろうが、それはこうした事情に立脚する。ちなみに、moth や Motte は元々は毛織物や毛皮を食害する小蛾類であるイガ』(鱗翅目ヒロズコガ(広頭小蛾)科 Tineidae のイガ(衣蛾)Tinea
translucens など)『の仲間を指す語であったらしい。今でもドイツ語の Motte の狭義の意味はイガ類を指している。このため、中世以来』、『毛織物が重要な衣料であった西ヨーロッパでは
moth-Motte 系統の単語には害虫としての不快感が付きまとっており、このことが明治以降の学校教育における博物学の授業を通じて、チョウは鑑賞に堪える美しい昆虫、ガは害虫が多い不快な昆虫というイメージが日本に導入され、定着したことが根底にある可能性がある。日本語では、ハエ、ハチ、バッタ、トンボ、セミなど、多くの虫の名称が大和言葉、すなわち固有語である。しかし、この蝶と蛾に関しては漢語である。蝶、蛾もかつては、かはひらこ、ひひる、ひむしなどと大和言葉で呼ばれていた。その際、蝶と蛾は名称の上でも、概念の上でも区別されていなかった。しかし上記のごとく英語圏からの博物学の導入に伴って蝶と、蛾の区別を明確に取り入れたため、両者を区別しない、かはひらこなどの大和言葉はむしろ不都合であった。そこで漢語の蝶、蛾にその意味を当てたわけだが、それも上記のとおり、本来の字義とは異なっている』とある。最後の部分は大変、勉強になった。因みに、「廣漢和辭典」で「蝶」(実は「蜨」が「蝶」に正字とする)を見ると、上記の通り、「蝶」の字は形声で「薄く平たい羽の虫」の意、「蛾」は元来は「蚕の成虫」を限定して指す字であった。「日本国語大辞典」によると、蝶の古語「かはひらこ」は、『川辺にヒラヒラ飛ぶ意』と、『カハホリ(蝙蝠)と同じく、膜翅を張るところからカハハリ(皮張)の意』が語源とする二説を掲げ、また「ひひる」は元「ひいる」でこれは多数の語源説がある。『よく灯を消すところから』、『羽をひらめかす』言いの擬態語『ヒリヒリ』(ヒラヒラの古形)から、『這這羽振(はひはひはふる)』の義からなどが挙がる。「羽が「ひむし」は私は前の「ひいるむし」の短縮形を疑うが、判り易い説は言わずもがな、「燈蟲(灯虫)」(ひむし)ではある(しかし上代特殊仮名遣の研究成果からは「ひむし」の「火虫」説は存立しえないとある)。なお、失望されると困るので、最初に断わっておくと、次項は「燈蛾(ひとりむし)=「蛾」で、その次に「鳳蝶(あげはのてふ)」が来るものの、蛾や蝶や類はそれで「おしまい」である。意外の感を持たれるかも知れないが、実は古来、蝶は必ずしも美しく愛でるものとして一般に認知されていたわけでは実は、ない。例えば、一九七八年築地書館刊の今井彰氏の「蝶の民俗学」によれば(私の長い愛読書の一冊である)、「万葉集」には蝶を直接歌った歌がない。即ち、古えには蝶はなんらかの不吉なシンボルとして認識されていた可能性が極めて高いということである。蝶が多く棲息するのは市中ではなく、相対的に緑の多い都会の辺縁部であって、そこは古くはイコール、死んだ者の亡骸を遺棄・風葬し、埋葬するべき触穢の時空であり、死と生の境界であった。そこに白く空を浮遊する対象物は容易に死者の霊魂を想起させたと思われる。遺体の体液を吸うために蝶が群がるというシークエンスもなかったとは言えない。清少納言や「虫愛ずる姫君」の虫女(むしじょ)カルチャー以前に、死後の世界や霊界とアクセスする回路の虚空を――白昼夜間も問わず――こそ、蝶や蛾は――実は跳梁していたのではなかったか? と私は思うのである。
なお、挿絵の図の蝶は二匹描かれているが、これは、上方のやや大きく、翅脈の周りの鱗粉が有意に黒くなっている種は、
アゲハチョウ上科シロチョウ科シロチョウ亜科モンシロチョウ属スジグロシロチョウPieris
melete
と思われ、下の種が同属のお馴染みの、
モンシロチョウ属モンシロチョウ Pieris rapae
であろうかと思われる。
・「蛺蝶〔(たてはてふ)〕」現行、鱗翅目アゲハチョウ上科タテハチョウ科 Nymphalidae の和名「タテハ」にこの漢字を当て、中国語でも同様であるので解り易くこれで訓じた。東洋文庫版現代語訳では佶屈聱牙に『きょうちょう』(ケフテフ)である。
・「音、 。」欠字である。
・「烏足」恐らくこれは、キンポウゲ目キンポウゲ科キンポウゲ属ウマノアシガタ(馬の足形)Ranunculus
japonicus であろうと思われる。と言われても知らん、と言われそうだが、お馴染みの黄色のキンポウゲ(金鳳花・毛茛)のことである(ウィキの「ウマノアシガタ」によれば、厳密には花弁が一重咲きのウマノアシガタの八重咲きののものを「キンポウゲ」と通称しているらしい。なお、本種は有毒植物で、『これを食べた牛が中毒を起こしたことがある。中国では「毛茛」と書き、古くから薬として用いられているが、もちろん素人が扱うのは危険である』とある。因みに、『「金鳳花」は中国では「ホウセンカ」』(フウロソウ目ツリフネソウ科ツリフネソウ属ホウセンカ Impatiens balsamina)『の別名であるが、日本では全く別の「キンポウゲ・ウマノアシガタ」を指す』ともある)。和名の由来は根生葉(こんせいよう:地面の上方に向かって立ち上がることなく、根元の部分で地面の上に平たく広がる葉)の形が馬の蹄の形に見立てたものと思われる。なかなか私の推測を証明して呉れる記載を見出せなかったが、やっと、ちゃすか&すわさき氏共著のブログ「Updating details & Diary」のすわさき氏の「この花なんだ【キンポウゲ/タガラシ/キツネノボタン】(すわ)」を見出した。そこにキンポウゲの別名として「コマノアシガタ」(駒の足形)・「トリノアシガタ」(鳥の足形)や、中国の別名の「毛脚鷄」・「鴨脚板」・「老虎脚迹」・「老虎脚爪草」ときて、英名の一つに「Crow foot(カラスの足)」があると紹介される中、遂に、『キンポウゲの葉は馬の足だの烏足だの虎足だのと言』うところから、どうも『キンポウゲ属の葉はどうでも動物の足を連想させるよう』であると述べたところに、「烏足」が登場している。これに卵を産み羽化する蝶を御存じの方は、よろしく御教授あれ(以下、同じ。昆虫に冥い私がこれをやり始めたら、何時まで経っても進みゃあせん。悪しからず)。なお、キンポウゲ科 Ranunculaceae の仲間はキンポウゲ科トリカブト属
Aconitum を挙げれば一目瞭然、アルカロイドを含み、有毒植物が多いので極めて注意が必要である(一部は漢方薬や医薬品とする)。
・「橘」これは「本草綱目」の記載であるからこの「橘」は広義の「柑橘」(柑橘属(本邦のミカン属)Citrus)のことであろう。バラ亜綱ムクロジ目ミカン科ミカン亜科ミカン属タチバナ Citrus tachibana は本邦固有種で中国大陸本土には自生しない。
・「蠹〔(きくひむし)〕」現行の昆虫学では狭義には昆虫綱鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目 Cucujiformia 下目ゾウムシ上科キクイムシ科 Scolytidae に属する「木喰虫」を指すが、彼らは蝶の類ではないから、柑橘類を好物とする鳥類の幼虫類を指して言っている。私の家の庭の亡き母の金柑の葉も、毎年毎年、アゲハチョウの仲間に散々っぱら、食われてしまう。それほど美味いらしい。
・「綵裙〔(さいくん)〕」「綵」は「綾衣(あやぎぬ)」で上質の絹で織られたきらびやかな服、「裙」は裳裾(もすそ)で飾りのそれ。そんなものを食ったよう見える絢爛たる蝶も、確かにいるわなぁ。面白い。
・「各々、其の所の見る者に據りて、言ふのみ」この時珍の見解は、すこぶる科学的な発言で注目に値する。即ち、観測した時点で観測者が見た、見かけ上の状況や、発生対象フィールドに基づいて、ただ皮相的に、そのように判断したにだけに過ぎない、というのである。これは、それが正しいとは必ずしも言えない指摘しているのと同じである。但し、後を見れば判る通り、流石に時珍は自然発生説(古くなった衣服からも虫が生成される)を信じてはいた。
・「老〔(ろう)〕に至りて」幼虫が成長して幼虫の最終齢期に達して。
・「蛻〔(もぬ)け〕て」脱皮し、最後に蛹を作り(蛹化)して、羽化し。
・「蠺の、之れ、必ず羽化するがごとくなる〔(を)〕」ここまでを、前の「不知」(知らず)が受けると採る。上下点を使えば、遙かに返って訓読出来るのであるが、どうも私の経験からは、良安は前行に遠く飛ぶような訓読法を好まなかったようだ。これは一般の読者からすれば、失読誤読を防いで呉れて、とても嬉しいことではあるのである。
・「氣化・風化」対象物の陰陽の「氣」の急激な変化や、その五行の「木」の属する「風」の属性の迅速な変容によって、新たな生命体が生み出される現象をかく言っているようである(これは一種の「化生」に近いものとも言えようか)。
・「其の色も亦、各々、其の蟲の食ふ所の花・葉及び化する所の物の色に隨ひて、然り」類感呪術的発想である。
・「圭角」「けいかく」と読んでよいが、「圭」は玉(ぎょく)の意で白く美しい高価な宝石である玉の、鋭くとがった箇所を指す。自然界ならば、細い結晶の尖端部である。これは蝶の蛹(蝶は「被蛹(ひよう)」と呼ばれる、脚や翅がくっついてしまった蛹を形成する)の、後の成虫になる折りの外骨格の触角などの頭部及び翅や脚構造を含む、胸部から腹部の節構造の突起箇所を、よく描写していると言える。
・「柑(かうじ)・橘(たちばな)」これは良安の勝手な訓である。前の「橘」の注を参照ののこと。
・「青緑、既に久しき時は」青緑がすっかり落ち着いた色になって安定した頃には、また再び(蛹化して)。
・「はかなくもまねく尾花にたはむれて暮れ行く秋をしらぬてふ哉 仲正」「夫木和歌抄」(鎌倉末期の私撰和歌集。全三十六巻。藤原長清撰。延慶三(一三一〇)年頃の成立。「万葉集」以後の家集・私撰集・歌合(うたあわせ)などの撰から漏れた歌一万七千余首を四季と雑に部立てし、約六百の題に分類したもの。「夫木和歌集」とも呼ぶ)に載る源仲正(源三位頼政の父)の一首。
・「一寸許り、白色なる者」「一寸」(三・〇三センチメートル)ほどで白く、アブラナ(次注)に似合うのは、もう、アゲハチョウ上科シロチョウ科シロチョウ亜科シロチョウ族モンシロチョウ属モンシロチョウ Pieris rapae。以下、中国でなく、昆虫に冥い日本人として読んでの同定候補である。
・「菁菜〔(なたね)〕」アブラナ目アブラナ科アブラナ属ラパ変種アブラナ Brassica rapa var. nippo-oleifera 。
・「黄蝶」アゲハチョウ上科シロチョウ科モンキチョウ亜科モンキチョウ属モンキチョウ Colias erate。
・「黃褐色」上記の近縁種モンキチョウ属ミヤマモンキチョウ Colias
palaeno か。通常はモンキチョウとあまり変わらないが、個体によっては翅の辺縁の褐色が強い桃色を呈する個体がいる。
・「紺蝶」「紺幡〔(こんばん)〕」「童幡〔(どうばん)〕」濃い黒褐色の翅の表面に鮮やかな水色の帯模様が入るのを特徴とするアゲハチョウ上科タテハチョウ科タテハチョウ亜科タテハチョウ族ルリタテハ属ルリタテハ Kaniska canace を挙げておく。「幡」は幟旗以外に、「翻」と同義で翻(ひるがえ)るの謂いがあるから相応しい。「童」は飛翔する様子を童子の遊ぶさまに擬えたか。
・「緑蝶」「緑女」「姥蝶〔(うばてふ)〕」春型の♂が非常に鮮やかなメタリックなエメラルド・グリーンを呈する、アゲハチョウ上科アゲハチョウ科アゲハチョウ亜科アゲハチョウ属ミヤマカラスアゲハ Papilio maackii を挙げておく。これらの漢名はもう私には「聊斎志異」!]
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